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対談集:特別対談 北野 大×河野博文

鉱害防止の最先端の取り組みと教訓を世界へ。JOGMECが果たすべき役割。

鉱害は今も対策が求められている 鉱害防止支援や資源備蓄は、資源探査と並ぶJOGMECの重要な役割

河野 この夏に旧松尾鉱山の新中和処理施設をご見学いただいたそうですが、いかがでしたか?( 注:2013年8月、北野氏は旧松尾鉱山新中和処理施設及びJOGMEC金属資源技術研究所などを見学)
北野 とても印象深かったですね。 毎分18tという大量の坑廃水を処理し、しかも操業から30年以上無事故で運転されていると聞きました。 実は、北上川の汚染については思い出があるんです。 私の世代はみんな知っている「北上夜曲」という歌で、「匂い優しい白百合の」と始まり「想い出すのは北上河原の月の夜」と終わる一節があるのですが、その歌詞の印象が強く、北上川というのはさぞ美しい川なのだろうと想像していました。 ところが、昭和42年頃でしたでしょうか、いざ訪ねてみると、なんと水が真っ茶色。 本当にがっかりした覚えがあります。 それが今は、すっかりきれいな清流に戻っている。 現地で作業を続けているJOGMECやその関係者の方々に敬意を表したいですね。
河野 ありがとうございます。 JOGMECは、石油や天然ガス、レアメタルなどの資源探査で認知されることが多い組織です。もちろんそれは重要な使命ですが、国民のライフラインを守るという視点に立つと、環境を守る、いざというときのために備蓄を管理する、ということも大変重要な使命です。これらは「うまくいって当たり前」という世界で、決して派手さはないのですが、その分野でお役に立てているのはうれしいですね。
北野 確かに話題になりにくいテーマですね。そもそも今でも「鉱害」があるのかと、意外に思う人が多いのではないでしょうか。
河野 そうなんです。北野先生には釈迦に説法ですが、金属鉱山では、採掘中はもちろん、閉山後も採掘跡などに様々な鉱石が残り、それが地下水や空気中の酸素と反応して重金属を含んだ強酸性の坑廃水を発生させてしまいます。
北野 操業を止めても坑廃水を止められないところがやっかいですね。 実は、「公害」の原点は「鉱害」なんですね。元々、日本の環境問題は、鉱山活動に伴って発生している。明治初期の足尾鉱毒事件はよく知られていますが、他の銅山でも鉱毒事件はすでに江戸時代から起きていました。それが昭和30年代の高度成長期から「公害」に変わっていきます。 鉱業が産業競争力を失って下火になり、代わって工業製品の大量生産が始まったからです。それに伴って発生する工場排水による川の汚染、排煙による大気汚染などが大きな問題になっていきます。 しかし最近は、この「公害」という言葉もあまり使われなくなりました。「 環境問題」という言い方になってきています。 いわゆる公害については行政も企業も相当努力して、かなり克服し、原因が産業活動から人々の生活に起因するものに変わってきたからです。例を挙げればきりがありませんが、水の汚染も工場排水から生活排水の問題になっています。「 産業型環境問題」から「都市型・生活型環境問題」に移っているということですね。つまり、工場騒音や工場廃水は、必要な対策を取り、最終的には工場の操業を中止すれば発生も止まる。しかし金属鉱山は、そうはいかないんですね。 克服したように見える公害のさらに以前の鉱害は、すっかり国民の記憶から遠ざかっているけれど、実は終わっていない。 まだ残っているわけです。
河野 日本はかつて大規模な鉱山国だったんです。調べてみますと、これまでに5,000以上もの鉱山が存在し、石炭のピーク時の年間生産量は最大5,000万t。金も明治時代以降で1,400tくらい生産されています。銅に至っては、1700年代、1800年代と、年間2,000t前後がコンスタントに生産されている。 19世紀初めの日本は、おそらく世界最大の産銅国でした。一方で、残念ながら鉱害という負の遺産もある。それもまた小さくない。
北野 しかもその対策は、閉山に伴う「後処理」的なことだから、収益が全く伴わない。
河野 そうなんです。しかも、国の仕組みは、鉱山を保有している企業にはきちんと責任を果たしていただくということですが、採算が悪化して倒産してしまったり、当事者がいなくなってしまうケースもあります。このような市場原理が働かない特殊な条件下で継続的に対処しなければならないし、技術開発も求められますが、実際にその費用を負担する人がいないという状況があります。 だからこそJOGMECが鉱害防止支援事業を推進する社会的な使命は非常に大きいと思っています。

旧松尾鉱山新中和処理施設及びJOGMEC金属資源技術研究所を見学する北野氏(2013年8月)

旧松尾鉱山新中和処理施設及びJOGMEC金属資源技術研究所を見学する北野氏(2013年8月)

能動から受動へ。技術の新たな発想 パッシブ・トリートメントで、坑廃水を浄化

河野 パッシブ・トリートメントについてもご覧いただいたんですよね。
北野 はい。金属資源技術研究所で見せていただきました。非常にユニークな研究ですね。モミガラを使い、硫酸還元菌というバクテリアの活動で坑廃水に残っている金属を除去する。つまり、微生物という自然の力をうまく利用する、ということですね。
河野 私たちが研究開発を進めている鉱害防止技術には、このパッシブ・トリートメントのように、自然の力を使い、新たな化学物質の投入を極力抑えるという発想のものがいくつかあります。 ある種の植物が持つ重金属の蓄積能力に着目し、これを活用する調査研究などにも専門家の方と共同で取り組んいます。環境負荷が少なく、コストも抑えられることが利点として挙げられます。 鉱害対策は、地方や国の税金を投入して行う事業ですから、費用は極力抑えなければなりません。 実は海外でも、パッシブ・トリートメントの技術は期待されています。つい先日もオマーンを訪問しましたが、オマーンは古い産油国で、採掘にはいろいろ問題を抱えています。例えば、「随伴水」と呼びますが、原油と一緒に水がたくさん出てきてしまう。 この油混じりの水をそのまま海に流すことができずに困っているんです。 そこでは、日本の段々畑のような多段式の植栽スペースを設けて、そこに随伴水を通す、という処理が行われていました。 植物の力や微生物の力を使うのですが、相当きれいになるそうです。
北野 素晴らしいですね。 実は原子力発電の世界でも何か異常が発生した時、現在は、人が止める、人が冷やす、人が閉じ込める、という方法をとります。 能動的に安全な状態にするという発想ですね。 しかし今追求されていることは、自然に止まる、自然に冷やす、自然に封じ込める、というものです。 能動安全から受動安全への発想そのものの転換という意味では、まさに同じです。 ただ「パッシブ・トリートメント」というネーミングは、私はあまり賛成じゃないんです。
河野 なぜですか?
北野 「パッシブ」というと、なにか非常に受け身的で、つまり何も積極的にやっていないかのように受け止められてしまいませんか? 微生物の力を借り、エネルギーを使って生産したものを必要としないというのは、大変優れた方法です。 だからこそ、ぜひ印象の良い名前にしたい。 ネーミングは大事だと思います。 少し古い話ですが、大分県の前知事が「一村一品運動」というものを提唱された。 この「一村一品」など、うまいなと思います。 実は私も、東京都で従来「下水処理場」といわれていた施設のネーミングの考案に関わったことがあります。元々は「汚水処理場」だったものを「下水処理場」にしていたんですが、もっと良いものはないかと。 そこで「水再生センター」に変えたんです。
河野 響きがいいですね。
北野 水資源のリサイクル工場なんだ、というイメージで選びました。 幸い評判もいいようです。
河野 ではパッシブ・トリートメントも、北野先生にぜひ良い名前をつけていただいて(笑)。
北野 急いで責任逃れをするわけではありませんが、公募するという手もありますね(笑)。 いずれにしても、操業停止後に廃水の問題が残るということは、一般の方はほとんど認識されていません。 ですから、改めてPRする必要があります。 名称を変えることも、一つの手ですよね。

北野 大×河野博文

日本の教訓を世界へと伝える

北野 新たな資源開発ばかりではなく、言葉は悪いかもしれませんが、いわゆる「後始末」も考えてきちんと取り組んでいることが素晴らしいと思います。しかもこの日本の教訓は、今まさに鉱業生産を活発化させている国々に生かせますね。
河野 おっしゃる通りです。 これから鉱山開発を進めていこうという国に対して、日本の轍を踏まないように、何かお手伝いができればいいと思っています。最近ではペルーのエネルギー鉱山省から、ぜひ日本の専門家を継続して派遣してほしいというお話があり、JOGMECがその要請に応えてきましたが、さらにそこからペルーの鉱害問題に対応する人材育成を支援するという話に発展しています。 また、東南アジアやアフリカの国々でも、日本の鉱害防止対策の事例を伝えるセミナーなどを開いており、多くの方に参加していただいています。大変参考になって良かったという声がたくさん寄せられており、これらは、今までとは違う切り口の世界各国とのお付き合いの仕方だと思っています。 またJOGMECが海外で進める探鉱プロジェクトや、日本企業の資源開発の活動をサポートする場合に、常に一つの判断材料としているのが、いわゆるHSE(Health、Safety & Environment)です。このマネジメントがきちんとなされ、プロジェクトが環境に配慮したものであるかどうか。その視点は非常に重要だと考えています。
北野 環境配慮というと、あたかもそれが「負の投資」であるかのようにとらえる経営者も多いですね。できればやりたくない、とか、それに何億円も掛ける必要があるのかと。 発展途上国も、どうしても環境よりまず発展だ、経済だ、という方向に走りがちです。 しかしもっと広い視野で、サスティナブル・ディベロップメント(持続可能な発展)という大きなゴールを目指さなければいけないと思います。その一環として低炭素社会とか、循環型社会ということがある。企業人であっても家に帰れば家庭人です。私たちが学んだことをぜひ教訓にしてほしいですね。
河野 その点、資源保有国、あるいはこれから発展していこうとする国々は、私たちが考えている以上に環境問題に高い意識を持っています。ぜひそういう視点からの協力を続けたいと思っています。
北野 先日オリンピックの招致活動で、日本の「オモテナシ」という言葉が話題になりましたが、日本の外交については、「お互い様とお陰様」という考え方が大切だと思っています。 今の日本の発展があるのは、世界銀行にお金を借りていろいろ整備したからですね。 東名高速道路もそうです。そして借りたものはきちんと返した。やはり「お互い様とお陰様」です。 途上国に対しても様々な支援の方法があると思いますが、広い心を持って関わり、それを通じて信頼され尊敬される国になっていけばいい。世界に対してはこうした「お互い様とお陰様」の気持ちが大事ではないでしょうか。

北野 大×河野博文

資源国とWIN-WINの関係へ 日本の人材・技術と海外のエネルギー資源をバーターする

北野 改めて言うまでもないことですが、日本の強みは人材ですね。残念ながら天然資源には恵まれていない。 だからこれらはバーターすればいいと思う。一種のWIN-WINの関係です。「 テイク&テイク」ではなく「ギブ&テイク」でなければなりません。人材や技術というヒューマンリソースと天然資源をやりとりして補い合う。それがこれからの日本の生きる道だと思っています。 そういう意味でJOGMECのような組織に、もっと活躍してもらいたいですね。
河野 実際私たちは、ユニークで質の高い技術を数多く所有しています。たとえば油田の貯留槽内にCO2を注入して石油の増産を図る「CO2EOR」と呼ばれる技術は、かなりのCO2を地中に封じ込めることになるので、大気中へのCO2排出抑制、ひいては地球温暖化防止に貢献するものです。しかも石油が増産されるので経済的なリターンも得られる。産油国・産ガス国には当然増産したいという意欲があり、他方で、産出しているのが化石燃料そのものですからCO2の排出抑制にも強い関心がある。 そのいずれも満足させることができる技術なのです。すでにアブダビやベトナムの国営石油会社に対して、この技術を生かして協力しています。
北野 文字通り一石二鳥を可能にする技術ですね。こういう技術が確立していくと、いろいろな場面で持続的な発展への歩みが加速できると思います。例えば硫黄酸化物に石灰を入れて石膏にする。そうすると住宅用の石膏ボードになります。このように処理するだけではなく、それが同時に新たな商品を生み出すというような技術の開発を進め、普及させたいですね。環境対策そのものに大きな意義がありますが、それだけではともすれば「仕方のない投資」のようにとらえられてしまう。
河野 私たちが今取り組んでいるプロジェクトの一つに、資源開発におけるシーズとニーズを結ぶ「技術ソリューション事業」というものがあります。 北野先生もよくご存じのように、日本は世界的な競争力を持つ技術を数多く有しています。しかし、国内には油田もガス田も金属鉱山もほとんど存在しない。 超一流の国産技術を「資源のアップストリーム」である上流工程で生かせるはずなのに、そのチャネルに乏しいのですね。実際、資源開発に関わる仕事をしている人で、ITやセンサー、コンピューティングの技術に精通している人は少ない。逆に、自動車などの産業分野でITを駆使している人は、資源の上流分野への理解に乏しい。 そういうチグハグな状況にあります。 そこで私たちは、様々な技術を資源の上流工程で役立てるように仲介したいと考えています。 つまり、シーズとニーズを結びつける触媒になる。 そういう観点から、技術ソリューション事業を始めました。 すでに成果も出始めていて、例えば、日本の環境技術に、湖沼のアオコを磁力で高速かつ高度に分離する技術があり、これを水と油が混ざった状態の随伴水に応用した「FMS(凝縮磁気分離システム)」という水処理技術をメキシコに提案し、現在、同国の洋上油田で実証試験中です。 いずれは中東の産油国にも紹介したいと思っています。
北野 磁石を使うところがユニークですね。
河野 ほかにも、地質や地下の構造を把握するために、加速度センサーという自動車のブレーキメーカーがもっている技術を応用しようとしています。 ブレーキメーカーは加速度センサーを使い、振動を詳細につかんでブレーキを制御するのですが、これを応用して、地上から地震波を流しながら地下の挙動を詳細に、時系列的に把握しようという試みです。
北野 センサーを使えば掘削の必要もないし、汚染の心配もない。 その意味でも良いですね。
河野 こうした産業技術を資源開発の分野でどんどん生かしていきたいと思っています。また、自国で技術を育てるだけではなく、産油ガス国、資源保有国の若い技術者を日本に招き、学んでもらうということも考えています。 この人材育成までを統合したシステムを、資源保有国にアピールしていきたいと思っています。
北野 それこそ、日本の優秀な人材・技術というヒューマンリソースと、天然資源のバーターですね。 お互いにないものを補い合いながらともに歩んでいく。 旧松尾鉱山の新中和処理施設や金属資源技術研究所でもすばらしいものを見せていただき、今日も非常に可能性のあるお話を聞かせていただきました。 ぜひ多くの人に知ってほしいですね。 日本人は謙虚なところがあって、善い行いがあまり表に出てこない。 仏教の影響があるのかもしれません。 人様に善いことをしても、それを大っぴらにするようなことを徳としない。 陰徳という考え方ですね。 人知れず善いことをするのが本当の徳なんだ、というような。 でも、こんなに素晴らしいたくさんの試みについては、もっと広く知らしめてほしいですね。
河野 そうですね。確かにPRが不十分なのかもしれない。ぜひ、北野先生のお力もお借りして、もっとアピールしていきましょう。今日はありがとうございました。

北野 大×河野博文

JOGMEC NEWS Vol.35
内容は2013年12月時点のものになります。
当記事が掲載された広報誌「JOGMEC NEWS Vol.35(2013年12月発行)」も併せてご利用ください。