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広報誌特集:変動する油価と日本の進むべき道

変動する油価と日本の進むべき道

 2014年9月まで1バレル100ドル(米ドル)前後で推移していた油価が、2015年1月には40ドル台に下落しました。その背景にある需要・供給の構造的な要因、地政学的リスク、そして、日本は今後どのような取り組みを進めるべきなのか、JOGMEC上席エコノミストの野神隆之が解説します。

世界経済の不振が招いた石油需要の伸び悩み

野神隆之

 2014年末からの油価下落は、需給の構造的な要因によるものと考えています。まず需要面についてですが、石油需要は、アメリカ、ヨーロッパ、中国、日本といった各国・地域の経済の影響を強く受けます。
 アメリカでは、雇用者数が毎月20万人を超える水準で増加しており、経済は着実に回復しています。しかし、昨夏までの油価が高い状況下で、消費者の節約意識が働いたことや、自動車の燃費効率の改善もあり、経済は成長したものの石油の需要は伸びないという状況が続きました。
 ヨーロッパは、アメリカと同様、ディーゼル車が多く、燃費効率の改善も進んでいますが、それ以前に経済が良くありませんでした。一部の国の債務問題について解決策を講じているうちに、緊縮財政という方策に向かったため全体的に経済が冷え込んでしまったのです。加えて、ウクライナ問題があります。ロシアと西側諸国の対立の激化という背景のもと、アメリカ、ヨーロッパが、ロシアに対して経済制裁を施すという事態に至ってしまいました。その結果、ロシア経済だけでなく、ロシアと距離的に近く、経済的な結びつきが緊密であるヨーロッパ経済にも影響が出始めました。特にドイツはロシアと緊密な関係を持つ国の一つです。対ロシア経済制裁によって少なからず影響を受け、それまで比較的堅調であったドイツ経済が、欧州経済を牽引するだけの力を維持できなくなってきました。ヨーロッパ経済が減速気味となったことで、石油の需要も伸び悩むという観測が強くなってきました。
 中国は、2010年頃には、景気刺激策の実施もあり年率10%程度で経済が成長していましたが、近年の不動産部門の不振を受け、昨年のGDPの伸び率は7.4%へ減速しました。今年は、政府が7%を目標にするなど一段と伸びが鈍化することが予測されます。中国は石油消費が伸張している世界で唯一の国ですが、経済の減速によって石油需要も鈍化するという観測が市場に広がっています。
 日本では、消費税増税によって、石油需要がもたついてしまいました。
 こうした需要側の要因をまとめると、アメリカは、経済は良いが石油の需要が伸びない、ヨーロッパ、中国、日本は、経済が弱いので石油の需要が伸びないという状況にありました。

アメリカのシェールオイル増産とOPECの生産維持によって、石油供給量が増大

 一方の供給面では、2012年までは、非OPEC諸国の供給が頭打ちになり、OPEC加盟国のシェアが拡大すると予測されていました。ところが2013年に、アメリカでシェールオイルの生産が堅調に増加しているとの認識が市場に広がり始め、2014年には日量450万バレルまで跳ね上がりました。アメリカは再び産油国となり、今ではロシア、サウジアラビアに次ぐ世界第3位の生産量を誇るまでになりました。
 OPECは「市場の安定、価格の安定」を標榜していますが、彼ら産油国にとっての「市場の安定、価格の安定」は、価格の高値安定を意味します。ですから、OPECの市場シェアが拡大すると、高値に誘導されがちになり、市場も価格を下げにくい状況になります。しかし、アメリカのシェールオイルによって、OPECの市場シェアが下がり、市場の心理も冷え、油価も下がりやすくなりました。
 従来は、石油の需給が緩和し始めると、OPECが調整に入ることが常でした。つまり、供給が需要を上回ることが予想されるケースでは減産を行い、市場から余剰分を排除することで需給をバランスさせ、価格を維持する手立てを打ってきたのです。ところが2014年11月、ウイーンで開催された第166回OPEC総会では、「今回は減産しない」ことが決定されました。これにより、油価が下落のスピードを速め、その結果、1月にはアメリカの代表的な指標であるWTIは43ドルまで下がりました。

2014年半ばまで油価が維持されたのは、地政学的リスクが要因

 アメリカのシェールオイルの増産は顕著なものとなりましたが、2014年半ばまでの油価は、100ドル前後で上昇も下落もしないという状況にありました。これは、油価の下落を抑制する力、つまり地政学的要因が働いていたと考えられます。
 代表的なものとして、イラン、イラク、ウクライナ・ロシアなどの問題があげられます。これらの要因が作用して、足元の需給は緩んでいるものの、万一これらの国で供給の途絶が発生した場合、一気に需給が引き締まってしまい、石油が足りなくなるという懸念が市場に広まったため、昨年前半までは油価が比較的高止まりしていたと考えられます。
 イランについては、ウラン濃縮問題をめぐって、西側諸国が石油の禁輸措置をとり、その結果、石油生産量は制裁前に比べて日量約100万バレル減少しています。2012年には、イランが報復としてホルムズ海峡を封鎖するのではないかという懸念がありました。ホルムズ海峡は日量約1700万バレル、世界石油需要の約2割が往来する海峡であり、封鎖による影響は甚大なものになります。しかし、2013年のロウハニ新大統領就任以降は対話路線に転換し、ホルムズ海峡が封鎖される可能性は著しく低下したという認識が市場に広がりました。
 イラクでは、2014年6月、イスラム国が、イラク北部の都市・モスルを掌握し、バグダッドに向けて進撃を開始しました。その過程で、イラク国内の油田が破壊されて生産が減少し、石油の需給が引き締まるのではないかという不安が高まり、油価が上昇しました。しかし、その後、イスラム国が進撃または勢力を保っている地域は、イスラム国を支援しているスンニ派が支配するイラク北部であり、油田地帯の中心である南部は、シーア派が支配しているため、イスラム国は進撃できないことが判明しました。
 ウクライナ東部では、ウクライナ政府と親ロシア派勢力との間で戦闘状態が続いており、ロシアがそのような緊張状態の緩和に努力していないという理由で、前述の通り欧米諸国がロシアに対して経済制裁を行う事態に発展しています。しかし、ロシアが報復措置として石油の輸出を途絶させたり、反対に欧米諸国が対ロ制裁の措置の一環として輸入を禁止したりすることはありませんでした。ヨーロッパとロシアは相互依存が非常に強く、お互いの経済に大きな打撃を与えてしまうため、石油の禁輸出入という事態には至らなかったのです。
 油価は、地政学的リスクに伴う石油供給懸念によって維持されていましたが、そのような懸念が低下するとともに、アメリカのシェールオイルの増産と、OPECが生産維持を決定したことで下落を始めたのです。

海外依存度が高い日本は、中長期視点での取り組みが重要

 現在油価は、WTIの場合45ドル前後で推移しています。では、油価が下落したので、我々は安価な石油を市場から買うという姿勢でいてもいいのでしょうか。実は、シェールオイルやカナダのオイルサンド由来の石油などは、開発・生産コストが高いので、油価の下落により、石油会社の開発・生産に対する投資活動に支障が生ずる恐れがあります。そしてそれが後になって、当初見込み通りに供給が積み増されないという結果に繋がり、需給が引き締まることにより油価が再び上昇する可能性があります。
 つまり、油価が安いなら海外から買ってくればいいのではないかという議論は、短期的には正しいのかもしれませんが、中長期的には価格上昇のリスクの種を蒔いているようなものだと言えるでしょう。現在、油価は下落していますが、需給関係も、地政学的リスクも常に変化します。2008年の油価高騰時には、国としての取り組みの脆弱さが指摘されました。資源の海外依存度が高い日本は、常に中長期的な視点を持ち、どのような状況であっても、海外での資源開発を着実に推進することが重要だと考えます。
 振り返ってみると、アメリカのシェールオイルも、技術開発は1970~80年代に着手されていました。次世代型のエネルギーや資源の開発には、長い期間が必要となります。それを見据えて、円滑な石油の供給を確保するにはどうすべきかを考えていくことも必要です。

油価と米国シェールオイル生産量の推移

油価と米国シェールオイル生産量の推移

JOGMEC NEWS Vol.40
内容は2015年3月時点のものになります。
当記事が掲載された広報誌「JOGMEC NEWS Vol.40(2015年3月発行)」も併せてご利用ください。