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石油開発最新事情:最新有機地球化学分析装置の原油・根源岩試料分析への適用

探査技術課

はじめに

 原油・根源岩試料に含まれるバイオマーカーの分析は、石油システムを解析するための有効な解析手法として石油探鉱に利用されています。バイオマーカーは起源となった生物に特異的な有機化合物として定義されます。バイオマーカー技術の進歩により、原油-根源岩対比により対象となる原油の根源岩を特定することができたり、根源岩の試料が手に入らなくても、原油やシープ(原油が地表に沁みだしたもの)からそれを生成した根源岩層の情報を得ることができるようになりました。具体的には、バイオマーカーから根源岩の起源となっている有機物の種類や堆積環境、熟成度などの情報を得ることができ、根源岩層の特徴を推定することが可能です。また、原油-原油対比によって原油の変質状況を分析することもできます。
 原油や堆積岩に含まれるバイオマーカーの分析は、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)や、GC/MSにさらに質量分析装置を追加したGC/MS/MSを用いて行われてきました。本報では、最新の分析装置である包括的二次元ガスクロマトグラフィ(GC x GC)やガスクロマトグラフ燃焼安定同位体質量分析計(GC/C/IR/MS)、液体クロマトグラフ質量分析計(LC/MS)(図1)を用いた原油・堆積岩試料中のバイオマーカー分析についてご紹介します。


図1 JOGMEC-TRC保有の有機地球化学分析装置

図1 JOGMEC-TRC保有の有機地球化学分析装置

包括的二次元ガスクロマトグラフィ(GC x GC)

 ガスクロマトグラフィ(GC)では、試料は注入後に気化されてカラムで分離され、分離された化合物は検出器で検出されます。従来のGCでは、カラムは一本ですが、包括的二次元ガスクロマトグラフィ(GC x GC)では、2本のカラムを使うことで、従来のGCよりも多くのピークが得られ、1本のカラムでの分離に比べ、ピーク分解能が高くなります。極性カラムと非極性カラムを用いて分析を行うことが多く、極性の異なるカラムを用いることで、アルカン、環状アルカン、オレフィン、単環芳香族化合物、多環芳香族化合物をタイプ別に分けることができます。一般に、分析の前に、カラムクロマトグラフィを用いて目的成分を分離することが多いですが、この前処理の過程で軽質炭化水素が失われてしまうといった問題が指摘されています。GC x GCでは、このような前処理が軽減でき、サンプルイメージングが容易に行えます。
 図2及び3は原油試料の分析結果と東部南海トラフで採取されたメタンハイドレート含有堆積物から抽出された有機化合物のGC x GCを用いた分析結果を示しています。図2のように得られた3次元クロマトグラムは原油の特徴が非常にわかりやすく、同一の石油根源岩を起源に持つと考えられる原油AとコンデンセートBを比較してみると、コンデンセートBではステランやホパンなどのバイオマーカーがナフタレンやフェナントレンなどの芳香族化合物にくらべてほとんどないという特徴が一目見ただけでわかります。また、GC x GCは2本のカラムを使うことでピーク分解能が高いため、簡単な前処理で多くの化合物を同時に分析することが可能です。たとえば、メタンハイドレートを含む堆積物から抽出したn-アルカン、n-アルコール、ステロール、ホパノールやペンタメチルイコサン(PMI)等のイソプレノイドを同時に分析をすることが可能です(図3)。東部南海トラフのメタンハイドレートのメタンの大部分はメタン生成菌によって生成されたと考えられており、メタン生成菌のバイオマーカーであるPMIの濃度変化を明らかにすることでメタンハイドレートの成因に関しての研究も行っています。

図2 (A)原油Aと(B)コンデンセートBのGCxGC-MS イオンクロマトグラム(3次元)

図2 (A)原油Aと(B)コンデンセートBのGCxGC-MS イオンクロマトグラム(3次元)

図3 メタンハイドレート含有堆積物の中性脂質のGCxGCクロマトグラム

図3 メタンハイドレート含有堆積物の中性脂質のGCxGCクロマトグラム

ガスクロマトグラフ燃焼安定同位体質量分析計(GC/C/IR/MS)

 個別バイオマーカーの安定同位体比は、ガスクロマトグラフと同位体比質量分析計をマイクロボリューム燃焼炉などを介して結合し、有機化合物を単離することなしに数ナノモル程度の化合物で分析することが可能です。バイオマーカーの安定同位体比からは、そのバイオマーカーの起源や石油根源岩の熟成度の評価などを行うことができ、バイオマーカー組成からは得られない情報を得ることができます。たとえば原油のn-アルカンの個別安定炭素同位体分析を行うことによって、根源岩や熟成度の違いを評価することが可能です(図4)。たとえば、前述の原油AとコンデンセートBを比較した場合、熟成が進んだコンデンセートBの方が同位体比が軽くなります。陸起源有機物の指標である奇数炭素や高分子のn-アルカンの同位体比変動は認められないことから海成の原油であると考えられます。また、2つの試料の同位体比変動が同一の傾向を示すことから石油根源岩が同一であることも予想されます。石油や石油根源岩の中に含まれるn-アルカンの水素同位体比も石油の起源や熟成度の評価に最近用いられるようになっています。

図4 (A)原油Aと(B)コンデンセートBのn-alkaneの炭素同位体比

図4 (A)原油Aと(B)コンデンセートBのn-alkaneの炭素同位体比

液体クロマトグラフ質量分析計(LC/MS)

 GCは分析時に気化させる必要があるため、分子量が大きく、極性が高い化合物は誘導体化を行っても十分に沸点を下げることができませんが、液体クロマトグラフ質量分析計(LC/MS)は分子量が大きく、極性が高い化合物の分析に適しています。そのため、起源および環境に関する情報が飛躍的に増加することが期待されています。たとえば、環境分野では、LC/MSは、環境分野に必要な感度と堅牢性を備えていなかったため、従来、GC、GC/MSなどの装置で実施されてきましたが、近年、LC/MS技術が大幅に向上し、現在では環境アプリケーションに日常的に使用されるようになっています。新たなLC/MSテクニックが登場し、性能が改良されたことで、多くの化合物が同定されています。
 図5は堆積物から抽出されたテトラエーテル脂質をAgilent 6550 iFunnel Q-TOF LC/MSシステムで分析した結果を示していますが、テトラエーテル脂質 は主に古細菌によって合成され、古水温等の情報も記録していることから、起源生物や環境に関する情報を豊富に有していると考えられています。堆積岩や原油中には多くの化合物が存在しており、多数の化合物を1回の分析でスクリーニングおよび同定するには、液体クロマトグラフ/四重極飛行時間型質量分析装置(LC/Q-TOF)が最適な手法です。LC/Q-TOFは良好な質量精度と定量能力を持つため、対象化合物のルーチン分析だけでなく、未知化合物の検出にも役立ちます。

図5 堆積物試料中のテトラエーテル脂質のマスクロマトグラム<br />1: GDGT-0, 2: GDGT-1, 3:GDGT-2, 4: GDGT-3, 5: Crenarcheol, 6: GMGT-0

図5 堆積物試料中のテトラエーテル脂質のマスクロマトグラム
1: GDGT-0, 2: GDGT-1, 3:GDGT-2, 4: GDGT-3, 5: Crenarcheol, 6: GMGT-0

まとめ

 JOGMEC-TRCで保有する有機地球化学分析装置によるバイオマーカー分析例をご紹介しました。最新の分析装置を用いることで、これまで以上に詳細な起源、熟成度および環境情報を得ることができるようになりました。これにより今後は詳細な根源岩評価や石油根源岩対比等が行え、探鉱精度の向上が期待されます。
 「有機地球化学分析装置を用いた原油・根源岩試料分析」にご興味ある方はTRC探査技術課までお問い合わせください。

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