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石油開発最新事情:​坑壁安定性評価

石油天然ガス金属鉱物資源機構 技術部 開発技術課

はじめに

坑井を掘削していると坑壁近傍の岩石が破壊され坑径が拡大したり、坑壁面が坑内側へせりだし坑径が縮小したりするような変形を生じる場合があります。坑壁面の破壊、崩壊によって発生した岩石は、ケービングスまたは崩壊ザクと呼ばれ、泥水(でいすい)の循環により掘りくず(カッティングス)とともに地上まで運搬されます。著しい坑壁面の破壊はウォッシュアウトと呼ばれ、坑内に残されるケービングスやカッティグスの量の増加を生じ、パックオフ(ドリルストリングスの周りに滞留したケービングスやカッティングスがアニュラスを埋めることで、泥水循環やドリルストリングスの揚降管が困難になる現象)やドリルストリングス抑留の原因の一つになるため、ウォッシュアウトが生じないようなオペレーションが検討されます。坑壁のせり出しによってもアニュラスが狭くなるため、ドリルストリングス抑留の原因となりえます。
坑壁の破壊・変形には、様々な因子が関与しているため、ウォッシュアウトや坑壁面のせり出しを最小化するための手段も様々です。坑壁面が力学的かつ化学的にどの程度、安定しているのか、また坑壁の安定化に大きく寄与する因子が評価、同定されていれば、掘削や仕上げの際のトラブル回避に効果的である場合があります。JOGMECは、旧石油公団時代から操業会社の依頼を受けて、坑壁の安定性を評価するスタディを実施してきました。ここでは、坑壁安定性問題の力学的側面の一部について概説し、あわせてJOGMECの活動について紹介します。

坑壁の安定性に影響する因子

坑壁の安定性に影響する因子には、どのようなものがあるのでしょうか?以下のような因子が挙げられると思います。
1)地層を構成する岩石の力学的強度
2)地殻応力の大きさとその異方性(最大主応力と最小主応力の差)
3)掘削に用いる泥水比重
4)地層と泥水の温度差
5)泥水による地層の膨潤や溶解とそれに伴う強度の低下
6)ドリルストリングスの振動等による機械的なダメージ
7)ドリルストリングスの揚降管に伴う一時的な泥水柱圧の変化

多くが力学的因子によるものですが、中には5のように泥水と地層の化学的な相互作用に起因するものもあります。また、1や2のように地層や岩盤の特徴に起因するものもあれば、6や7のようにオペレーションに依存する人為的要因によるものもあります。ここでは、1から3の因子が坑壁安定性に及ぼす影響について、以下に述べたいとおもいます。

岩石の強度、変形挙動とその評価技術

地層を構成する岩石の強度が高い場合、坑壁の安定性は大きな問題になりません。すなわち地層を、強度が高く変形が生じない「剛体」としてみなせるならば、坑井近傍の変形は生じないわけです。ところが、われわれが油ガス層にアクセスするためには、様々な強度特性を持った地層を掘削しなければならないことがしばしばです。それらには、固結度が低い堆積物や、き裂を有する岩石、強度の異方性が著しいような岩石なども含まれます。したがって、坑壁安定性の評価では、安定性が問題となりうる岩石の強度や変形挙動を把握する作業が行われます。
図1は、その一環で実施した三軸試験結果の一例です。三軸試験とは、円柱に加工した岩石の柱面に一定の水圧(封圧、confining pressure)を作用させると同時に軸方向の荷重を上昇または下降させ、試験片に作用させた応力と生じたひずみの関係を測定する試験です。図の縦軸が軸方向応力と封圧の差(差応力)、横軸がひずみの大きさを示します。図は軸方向の荷重を大きくする圧縮試験の結果です。ここでは圧縮の応力およびひずみを正として表しますので、試験片の軸方向の縮みをプラス側に、半径方向の伸びをマイナス側に示しています。また図には、異なる3つの封圧による試験結果を表しました。
軸方向の荷重が小さい領域では、応力とひずみの間に線形関係を有する弾性変形を示しますが、軸荷重が大きくなるとやがて降伏が生じ、応力―ひずみ曲線が非線形となる塑性変形を示します。



図1.三軸試験による応力ひずみ線図(色の違いは異なる封圧による試験結果を示す)。

ここで注目したいのは、岩石の非弾性挙動が封圧によって変化し、降伏強度や降伏後の岩石が有する強度や体積膨張の挙動が封圧によって、大きく異なるということです。後述のように坑井周りの応力は、主応力の大きさが3次元的に変化する応力条件を取り得るので、三軸試験等により異なる応力条件下における岩石の応力―ひずみ関係を評価し、数値計算による坑壁変形のモデリングの入力とすることが重要です。また、堆積岩の多くは、降伏後、塑性ひずみが増加したのちに破壊に至るのが一般です。したがって、坑壁面の破壊をモデリングする場合、室内試験結果に基づいて、岩石が降伏、破壊する条件を応力や塑性ひずみの大きさを用いて表現できることが望まれます。
上記のように三軸試験等の室内試験により、岩石の変形・破壊挙動を直接的に測定できればよいですが、試験に必要な量、質の岩石サンプルがいつでも手に入るとは限りません。坑壁安定性が問題となる地層が、コアリングの対象に含まれていない場合もあります。岩石サンプルが採取されていない場合、電検結果等があればそれらを入力として経験則を用いた強度値の推定を行います。一方で、電検結果がない、もしくはその信頼性に乏しいような場合、比較的少量の岩石片があれば、硬さ試験機により強度を間接的に評価することができます。
硬さ試験機には種類があり、硬さ測定に用いる圧子やインパクトボディの形状や大きさも様々で、対象に適した試験機の選択が重要です。ここでは、エコーチップと呼ばれる硬さ試験機による結果を紹介したいと思います。直径3mm程度の球状のインパクトボディを対象物に発射し、その跳ね返りの程度により硬さを求める方法で、岩石の寸法が小さくても適用できるうえ、測定手法が簡便で測定が短時間で終わることから、多点計測が可能です。
岩石コアサンプルを対象にエコーチップによる硬さ試験を実施すると、その区間における密度検層や音波検層結果と、非常によい相関があることがわかります。そこでJOGMECでは、三軸試験等で得られた岩石強度と硬さ試験から得られた硬さとの相関をとることにより、硬さから岩石強度を類推できるような経験則の構築を進めています(図2)。

図2.エコーチップ硬さと一軸圧縮強度(UCS)の比較。

図2.エコーチップ硬さと一軸圧縮強度(UCS)の比較。

地殻応力場

水中の物体に水圧が作用するのと同様に、岩盤中の物体には地殻応力と呼ばれる力が作用します。水圧はどの方向にも同じ大きさの力が作用しますが、岩石は剛性を有しているので、地殻応力の大きさは方位によって異なります。また、プレートの移動や堆積構造に起因して、地殻応力場の大きさは方位によって異方性を有します。静かな堆積盆を仮定できる場合、地殻応力は、互いに直交する3つの主応力、すなわち垂直応力(Sv)、水平面内の最大主応力(SH)、水平面内の最小主応力(Sh)によって代表させることができます。また、これらの大小関係により、地殻応力は、正断層型、横ずれ断層型、逆断層型の3つのタイプに分けることができます。
図3は、ある油田での地殻応力場モデルです。このフィールドでは様々な傾斜を持つ坑井の坑径データから、正断層型の地殻応力場にあると判断されました。
一般に、垂直応力は密度検層結果等を元に得ることができます。また、水平面内の最小主応力はリークオフテストやマッドロス等のフィールド観測により得られる値から求めることができます。地層圧(間隙圧、Pp)も坑井の圧力テスト等により直接的に測定することができます。ところが水平面内における最大主応力の大きさを直接的に測定する有効な手段は、現在ありません。そこで、水平面内の最小主応力もしくは垂直応力に対して、ある比率を持つと仮定したり、後述するような坑壁変形モデリングの結果と実坑井で観測される坑径変化とのマッチングにより決定したりする手法等が用いられています。JOGMECではこれらの手法に加えて、岩石コアサンプルを用いた応力評価手法も検討しており、油ガス田でのフィールド測定を通じて、技術開発を実施しています。

図3.地殻応力場モデルの一例

図3.地殻応力場モデルの一例

坑井まわりの応力分布

これまでに応力という言葉をたびたび用いてきました。応力とは物体の内部において、単位面積をもつ仮想的な断面に作用する力です。物体内部の力学的な状態を記述するために必要な物理量ですので、ここではあえて応力という言葉を用います。
さて、円孔を有するプレートを左右から引っ張ると、円孔の周辺で作用する応力が高くなり、引っ張った応力の3倍の大きさの応力が円孔端部に作用することが知られています。このような現象を応力集中といいます。地層に坑井を掘削した場合も同様に考えることができます。すなわち、地層に坑井を掘削すると坑壁面には、それまで作用することのなかった大きさの圧縮応力が作用することになり、岩石がそれに耐えきれないと、坑壁面近傍が破壊されることになります。
坑井近傍の力学的な状態を表すためには3種類の応力を用います。それらは、坑壁面に沿った方向に作用する周方向応力(Hoop stress)、坑壁面に直交する方向に作用する半径方向応力(radial stress)、坑軸方向に作用する軸方向応力(axial stress)です。これらは互いに直交する方位に作用しています(図4)。

図4.坑井周りの応力場を記載するために用いる3つの主応力。

図4.坑井周りの応力場を記載するために用いる3つの主応力。

さて、正断層型の地殻応力場に垂直井を掘削した場合、坑井近傍の応力状態はどのように変化するのでしょうか。ここでは、図5に示すように力学特性が異なる2種類の地層による境界近傍を掘削した場合の数値計算モデルにより、それらを示したいと思います。応力場の対称性から坑軸を含む4分の1の大きさのモデルによって計算することができます。地層に作用する垂直応力(y方向)、水平面内の最大主応力(z方向)、最小主応力(x方向)、間隙圧はそれぞれ53 MPa、46 MPa、38 MPa、25 MPa、坑壁面には泥水によって29 MPaの圧力が作用している場合を仮定します。

図5.坑壁安定性評価数値モデル。

図5.坑壁安定性評価数値モデル。

それぞれの地層には、図6のような力学特性を与えました。封圧を15 MPaとする三軸試験を模擬した数値計算モデルによる応力―ひずみ線図で、地層1は、降伏強度がやや高いものの破壊後の強度は小さく脆性的な地層、一方、地層2は降伏後の強度が変化しない完全塑性体としました。

図6.地層1,2の力学特性(封圧は15 MPa)。

図6.地層1,2の力学特性(封圧は15 MPa)。

はじめに地層を弾性体とみなし、降伏が生じない場合の応力分布を考えたいと思います。図7に、図5のA-A’線に対応する各応力の分布を示しました。横軸には、坑井半径Rによって規格化した距離を用います。

図7.弾性体を仮定した場合における図5のA-A’線上の応力場分布。

図7.弾性体を仮定した場合における図5のA-A’線上の応力場分布。

坑井遠方では初期地殻応力が作用していますが、坑井近傍に向かって応力場は変化し、周方向応が71 MPaまで大きくなることがわかります。一方で、半径方向応力は29 MPaとなり、泥水柱圧と釣り合っていることがわかります。作用する主応力の差が大きくなるにつれて、岩石は破壊しやすくなるので、ここで想定したケースでは、周方向応力と半径方向応力の大きさが坑壁安定性に対して重要な値であるということができます。次に泥水比重を変化させ、坑壁に作用する泥水柱圧(Pw)を変えた場合の応力場分布を図8に示します。坑壁の圧縮破壊が問題となる場合、泥水比重を上げて対処しますが比重が大きくなるにつれて、周方向応力と半径方向応力との差が小さくなるのが、その理由です。一方、軸方向応力は、泥水比重により変化しません。

図8.泥水比重(泥水柱圧Pw)を変化させた場合における応力分布の変化。

図8.泥水比重(泥水柱圧Pw)を変化させた場合における応力分布の変化。

それでは、図6に示す力学特性により地層の塑性変形や降伏を考慮した場合の応力分布はどうなるでしょうか?図9にA-A’線における周方向応力の分布を示しました。泥水柱圧が29 MPaの場合、坑壁面近傍は応力集中によって破壊され、その結果、坑壁面における周方向応力は低下し、その値が最大となる位置は坑壁面から坑井の遠方に向かって移動することがわかります。泥水柱圧を29 MPaから26 MPaへ低下させた場合、坑壁面近傍の破壊がさらに進むので、最大の周方向応力を取りうる位置は、さらに坑井遠方へ移動し、掘削によって応力が初期地殻応力場から変化する領域が、坑井遠方へ拡大することになります。

図9.塑性変形を考慮した場合における周方向応力分布(赤線は弾性体モデルの場合)。

図9.塑性変形を考慮した場合における周方向応力分布(赤線は弾性体モデルの場合)。

降伏後、塑性変形が進むと地層は強度を失いケービングスとして坑壁面から坑内へ移動すると考えられます。そこでここでは、偏差塑性ひずみが、あるしきい値に達した岩石がケービングスになると仮定して、坑壁が破壊された後の坑壁面形状を求めました(図10、11)。図に緑色で示す部分が、坑壁面から取り除かられるケービングスを示しており、その領域は、泥水柱圧の低下によって拡大します。泥水柱圧が29 MPaの場合、ケービングスとなる領域はありませんが、26 MPaまで低下すると、ケービングスが生じ、結果として坑径の長軸方向長さは、ゲージサイズの1.5倍程度にまで拡大すると試算できました。

図10.泥水柱圧が29 MPa、27 MPaにおける坑壁近傍の破壊領域。

図10.泥水柱圧が29 MPa、27 MPaにおける坑壁近傍の破壊領域。

図11.泥水柱圧が26 MPaにおける坑壁の破壊領域と坑壁面の形状。

図11.泥水柱圧が26 MPaにおける坑壁の破壊領域と坑壁面の形状。

坑壁安定性評価による掘削時におけるトラブルの軽減

上述のように、岩石の特性や地殻応力場を入力として、坑井近傍の変形や破壊領域を定量化することはできますが、このような坑井近傍の力学的変形がパックオフやドリルストリングス抑留に対してどの程度のリスクとなりえるのか、評価できなければ掘削時のトラブル軽減に役立てることはできません。一般に、坑内に残留するカッティグスやケービングスの量が増加することによって、それらのリスクは高まります。では、どの程度のカッティングス、ケービングス量を掘削作業に対するリスクとすべきでしょうか?これは、坑径やBHAの編成、カッティングスやケービングスの力学特性、坑跡等にも依存しますし、カッティングス、ケービングスの坑内移動特性によっても変化します。したがって、坑壁安定性評価は、リスク管理に対して有効なアプローチのひとつであるといえますが、それのみで結論することは少々、乱暴な議論であるということができるかもしれません。そこでJOGMECでは、坑壁安定性評価をホールクリーニング評価等と連携させて考えることが、リスクの定量化に対して重要であると考えています。ここでは、坑壁安定性に対する力学的なモデリングによる検討を紹介しましたが、シェール層における坑壁安定性を考える場合、化学的な相互作用や多孔質弾性的な挙動も無視できません。これらを総合的に評価し、オペレーションで適用可能な技術の研究開発を進めようと試みています。

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