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石油開発最新事情:​低塩分濃度水攻法

石油天然ガス・金属鉱物資源機構 技術部 EOR課
松山隆介・森下諒一

はじめに

 2次回収法の一つである水攻法は、油層内に残った原油を水で押し出すとともに、油層内の圧力の維持を目的として行われ、通常、簡単に調達できる地層水(油ガス田から生産される水)や海水が使用されます。近年、地層水や海水よりも低い塩分濃度の水を圧入することで、より多くの原油が回収できる場合があることが既往の研究等から判明し、注目を浴びています。ここでは、低塩分濃度水を油層内に圧入する低塩分濃度水攻法(Low Salinity Water Flooding : LSWF)という技術について紹介します。

低塩分濃度水攻法とは

 低塩分濃度水攻法は、高塩分濃度水の代わりに低塩分濃度水を油層に圧入する技術であり、圧入水に低塩分濃度水を使用するという点以外は通常の水攻法と変わらないため、「環境への負荷が比較的小さい」、「他のEOR技術と比較して操業コストが低い」といったメリットがあります。低塩分濃度水が増油に寄与することは1960年代に報告されましたが、しばらくの間注目を浴びませんでした。その後1990年代に入り徐々に研究が活発化し始め、現在に至るまで多数の研究者によりその増油効果が確認されてきました。それらの研究結果から、低塩分濃度水攻法に必要とされる適用条件や、増油した際に共通して生じる現象が徐々に判明しつつあります(表1)。しかしながら、これらの条件が揃っていた場合でも増油が確認されなかったケースも存在し、未だ決定的な増油メカニズムが解明されていないのが現状です。また、石油が存在する層が砂岩と炭酸塩岩では増油メカニズムが異なるとされています。図1に、現在提唱されている砂岩における低塩分濃度水攻法の増油メカニズムの一部を示します。

表1. 砂岩における低塩分濃度水攻法適用条件と確認された現象(Austad et al. 2010から一部抜粋)

表1. 砂岩における低塩分濃度水攻法適用条件と確認された現象
(Austad et al. 2010から一部抜粋)

図1. 提唱されている増油メカニズムの一部(砂岩)

図1. 提唱されている増油メカニズムの一部(砂岩)

ベレア砂岩コアを用いた流動試験

 JOGMECでは低塩分濃度水攻法のメカニズム解明に向け、早稲田大学と共同でコアサンプルを用いた実験を実施しております。ここでは実験結果の一例を紹介します。本実験では、ベレア砂岩コアに一定量の原油を飽和させた後、高塩分濃度水(約250,000ppm)、低塩分濃度水(約2,500ppm)を順番に圧入し、回収される油の量、コア上下流の差圧、排出水のpH・イオン濃度を測定しました。図3が実験結果です。低塩分濃度水圧入後、油回収率が上昇し、それとほぼ同時にpHの値が圧入水の値よりも上昇していることが分かります。また、Ca2+イオンやMg2+イオンの濃度についても圧入水の値よりも上昇しています。これらの挙動は他の研究者らが実施したいくつかの実験でも確認されており、特徴的なものであるといえます。

図2. コア掃攻試験装置 (Matsumoto et al. 2015に一部加筆)

図2. コア掃攻試験装置 (Matsumoto et al. 2015に一部加筆)

図3. コア掃攻試験結果 (渡辺ら 2015)(pH・陽イオン濃度:プロットは排出水、破線は圧入水を表す)

図3. コア掃攻試験結果 (渡辺ら 2015)
(pH・陽イオン濃度:プロットは排出水、破線は圧入水を表す)

低塩分濃度水攻法と粘土鉱物

 多くの実験で低塩分濃度水の圧入によるイオン濃度の変化が確認されていますが、その原因として粘土鉱物とのイオン交換反応が指摘されています。一般的に粘土鉱物の粒子の表面は正か負に帯電しており、電荷を中和するために陽イオンあるいは陰イオンが吸着しています。そこに異なるイオンを含む溶液と接触すると吸着イオンと液中のイオンとの間でイオン交換反応が生じます(白水 1988)。提唱されているいくつかのメカニズムでは、粘土鉱物上に吸着しているイオンが交換される際に、何らかの要因で原油も同時に排出されると指摘しています。このようなことから、粘土鉱物の含有量やその分布が低塩分濃度水攻法には重要な要因である可能性があります。そのためJOGMECでは、自動鉱物同定機能付き環境制御型電子顕微鏡(QEMScan)を使用し、粘土鉱物の含有量とその分布を捉える試みを行っています。

図4. 自動鉱物同定機能付き環境制御型電子顕微鏡(QEMScan)

図4. 自動鉱物同定機能付き環境制御型電子顕微鏡(QEMScan)

実油田への低塩分濃度水攻法の適用を目指して

 JOGMECでは、上記の実験・研究以外にもシミュレーションを用いた分子レベルの挙動解析を京都大学と、ベレア砂岩等を用いたコア掃攻試験及び低塩分濃度水攻法用シミュレータの開発を早稲田大学と共同で実施しております。また、実油田から採取した原油・コアを用いた分析・掃攻試験も実施し、特定油田における低塩分濃度水攻法の適用性を評価しているところです。

参考: ベトナムでの低塩分濃度水攻法に関する共同研究契約を締結
http://www.jogmec.go.jp/news/release/news_06_000042.html

引用・参考文献
Tang and Morrow (1999) : Influence of brine composition and fines migration on crude oil/brine/rock interactions and oil recovery.
McGuire et al. (2005) : Low salinity oil recovery : An exciting new EOR opportunity for Alaska’s north slope
Lager et al. (2006) : Low salinity oil recovery – An experimental investigation
Ligthelm et al. (2009) : Novel water flooding strategy by manipulation of injection brine composition
Lee et al. (2010) : Low salinity oil recovery – Increasing understanding of the underlying mechanisms
Austad et al. : Chemical mechanism of low salinity water flooding in sandstone reservoirs
Matsumoto et al. (2015) : Investigation of low salinity water flooding mechanisms through Core-Flooding, IEA-EOR2015 発表資料
渡辺ら (2015) : 実験および数値シミュレーションによる低塩分濃度水攻法のメカニズム解明、H27石油技術教会春季講演会発表資料
村井大助 (2015) : 低塩分濃度水攻法に関するコア掃攻試験、平成27年度TRCウィーク発表資料
白水晴男 (1988): 粘土鉱物学-粘土科学の基礎-

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