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石油開発最新事情:​ シェール開発に関する大学共同研究

はじめに

 JOGMECは、北米シェールガス・オイル開発プロジェクトに参加する本邦企業と共同研究を実施すると共に大学との共同研究により、「水圧破砕によるフラクチャー進展の可視化(京都大学)」や「シェール孔隙内の流動現象の数値評価(東京大学)」などの基礎的な分野での知見向上を図っています。シェール開発の一般的な技術は、2016年初旬のTRC通信の石油開発最新情報で紹介しており、今回はより特化した話題として上記2つの大学共同研究を紹介します。

水圧破砕によるフラクチャー進展の可視化

 水圧破砕技術はシェール開発において必要不可欠な技術であり、効率的な開発として水圧破砕の最適化が求められています。一方で、水圧破砕により、どのようなフラクチャー(以下、亀裂と示す)がどのようなメカニズムで形成され、またどの程度の影響領域があったのかを明らかにする必要がありますが、これらの問題については不明瞭な部分が多いです。このような状況を勘案し、実験室規模での水圧破砕試験を実施し、生じた亀裂の可視化を行う、と同時に亀裂造成時に生じる微小弾性波(Acoustic Emission;AE)イベントとの比較検討を行う事で、亀裂進展メカニズムの解明を試みています。AEは、地震波やマイクロサイスミック(油ガス田での水圧破砕時の微小地震の観測)と同じ弾性体を伝播する弾性波であり、各名称はマグニチュード規模により使い分けています。室内でのAEと亀裂の比較を通じて、マイクロサイスミックの理解を深め、目に見えない現場の水圧破砕亀裂の把握に役立てようとしています。
 実験設備を図1に示します。供試体の中心付近に直径10mmのボアホールを作成し、そこから流体を圧入する事で水圧破砕を実施しています。圧入流体には、蛍光剤添加の熱硬化性の樹脂を使用しています。水圧破砕直後に、加熱することで樹脂を硬化させ、観察対象の面を切り出すことで、水圧破砕により生じた亀裂を可視化することが可能となっています。

図1 実験設備

図1 実験設備

 今回は、直径80mm、長さ200mmの円柱形に整形した井内頁岩(宮城県)の結果を紹介します。水圧破砕試験時には、合計347のAEイベントが観測されました。図2には、そのうち、観察のために切り出した断面付近の20個のAEイベントの震源位置を、紫外線照射により青白く光っている亀裂に重ねて示します。緑の線は震源位置決定における誤差を表しており、図2(c)は、震源決定における誤差が4mm以下のイベントのみを示しています。誤差が小さい震源の位置は、可視化された亀裂位置とよく一致しています。さらに、観察断面から薄片を整形し、図2(c)において、黄色で囲まれた3つの領域について、顕微鏡観察を行い、亀裂形状とAEイベントの比較を行いました。図3(a)(b)において観測されたAE イベントは、誤差の範囲で主亀裂の位置と良く一致します。図3(c)においては、比較的開口幅の広い大きな亀裂が形成されているにもかかわらずAEイベントは観測されていませんでした。このような評価に加えて、AEデータを使用し、亀裂形成メカニズムが引張かせん断かを評価する解析を試み、有益な結果を得つつあります。

図2 AE震源決定時の誤差楕円と可視化された亀裂

図2 AE震源決定時の誤差楕円と可視化された亀裂

図3 マイクロスケールでの亀裂形状観察とAEイベント

図3 マイクロスケールでの亀裂形状観察とAEイベント

シェール孔隙内の流動現象の数値評価

 通常のガス貯留層に比べ、シェールガス層はナノケールの微細な孔隙を有しています。そのような微細孔隙内での特有のガス挙動として、シェール中のケロジェンへのガス分子の吸着や、ガス分子が固体表面上ですべる現象が報告されています。ナノスケールの数値評価を通して、シェール層内でのこれらのガス挙動を明らかにし、適切なシェール(以下、頁岩と示す)ガス開発・生産に役立てようとしています。

(1)頁岩中のケロジェンに対するガス分子吸着のナノスケール解析
頁岩層内のガスは、孔壁などに吸着されている成分、また吸着されておらず、亀裂や孔隙内で自由に流動している成分が存在します。主に吸着現象が見られるのは頁岩の構成成分の中でも有機質部分の一つであるケロジェンであり、ケロジェン中に多数存在する数十ナノメートル程度の微細孔隙と考えられています。ケロジェン中のガス(本報告ではメタン)の吸着量及びシェールガスの埋蔵量を正確に推定する為、またケロジェン内におけるメタン吸着現象を理解する為、分子動力学法を用いたシミュレーションを実施しています。図4にシミュレーション系を示します。シミュレーション系の左右両端にケロジェンの分子モデルを配置し、中央部にメタンの分子モデルを配置します。

図4 シミュレーション系

図4 シミュレーション系

 検討の一例として、圧力5MPa、温度300Kとし、系内に配置するメタン分子の数を400分子~2800分子と変化させることで、異なる孔隙径(スリット幅)に対するメタン分子の吸着挙動のシミュレーションを実施しています。図5はシミュレーションにより得られたメタンの密度分布を示します。青色で示したケースでは、約40nmのケロジェン孔隙中でのメタン分子の密度分布を示します。図中の青色点線で示した密度は、5MPa、300Kにおけるメタンのバルク密度です。孔隙の中央部においては、計算されたメタン密度は、バルク密度と同程度であるのに対して、ケロジェン壁近傍においては、壁面への物理吸着として密度ピークが見られます。また、同一圧力でも孔隙径が小さくなるにつれて孔隙中のメタン密度がバルク密度と比べて大きくなっている事が分かります。このような吸着挙動を把握した上で、圧力条件などを変化させて、ガスの吸着量を評価しています。

図5 圧力5MPa、温度300Kにおけるメタン吸着シミュレーション

図5 圧力5MPa、温度300Kにおけるメタン吸着シミュレーション

(2)頁岩中のガス分子のすべり現象のナノスケール解析
ナノスケールの非常に微細な孔隙サイズを有する頁岩内でのメタンの流動は、「すべり流」領域となっています。このような領域においては、流路の壁面境界でのガス流速がゼロとならず、slip velocityを有しています。この影響により、頁岩内でのメタンの流動における見かけの浸透率は、通常のダルシー則により評価される浸透率よりも高くなっていると考えられます。Slip velocityは、以下に示すクヌーセン数(Kn)の関数として表すことができ、既往研究により、種々の評価式が提唱されています。
クヌーセン数Kn=λ/H
ここで、λは分子の平均自由行程を、Hは孔隙径を表しています。
図の4のようなシミュレーション系を用いて、分子動力学シミュレーションを実施し、ナノスケールでのメタンガス流動におけるSlip velocityの影響を検討しています。孔隙サイズを3nm~34nmと変化させ、異なるクヌーセン数に対する見かけの浸透率(通常の浸透率からslip velocityを考慮した事による増加率)を図6に示します。本図において、実線は、既往研究により提唱されている種々のslip velocity評価式の結果です。左図よりシミュレーション結果において、Kn数が大きくなるほど、すなわち、孔隙サイズが小さくなるほど、シミュレーション結果にばらつきが見られました。右図は、シミュレーション結果において、孔隙サイズが10nmより大きいものと、小さいものを分けて示します。孔隙サイズが10nm程度の場合、シミュレーション結果は、Beskokらの提唱した評価式とよく一致していることが分かります。本結果は、孔壁を石英とした場合の結果ですが、孔壁をケロジェンに変更した場合のすべり流の評価を現在進めています。

図6スリップフローシミュレーション結果

図6スリップフローシミュレーション結果