JOGMECでは休廃止鉱山における鉱害防止対策の効率化・費用低減化等のために必要な技術開発を行ってきました。
昭和50年代は堆積場対策や坑道閉塞など発生源対策が中心で、昭和60年代には中和殿物の処分等に関する技術開発を行い、成果をとりまとめた手引きや指針を作成しました。また、平成元年以降は、坑廃水処理の省力化・省エネルギー化を図る技術開発へと移行するなど、現場のニーズに基づいた様々な技術開発テーマに取り組んでいます。
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パッシブ・トリートメント(自然力活用型坑廃水処理)の調査研究
現行の坑廃水処理(アクティブ・トリートメント)では薬剤、電力、管理人員を常時必要としていますが、パッシブ・トリートメントはこれらを極力必要としないメンテナンスフリーに近い水処理技術です。この技術を坑廃水処理に活用することで、処理費用の大幅な削減が期待できます。
パッシブ・トリートメントの特徴は、微生物によって重金属を沈殿除去しやすい状態に変えたり、植物によって重金属を濾過・吸収したりするなど、自然の浄化作用を最大限利用することにあります(図1)。
海外では石炭鉱山から排出される鉄を含む坑廃水への実用化事例(写真1)はありますが、金属鉱山から排出される重金属(亜鉛・カドミウム等)を含む酸性坑廃水に対する適用事例はまだ少なく、研究段階です。
国内で適用するためには、地形的な制約や坑廃水量の変動等、様々な技術課題が多くあり、JOGMECでは特に嫌気性微生物を活用した処理技術に着目し、将来の現場導入を目指して現地実証試験を実施しています。
具体的には、有機系廃棄物などを充填したカラムや反応槽を嫌気条件(酸素のない状態)に保ち、そのような条件で働く微生物(硫酸還元菌)によって坑廃水中の重金属を硫化物にして除去する処理法の研究に取り組んでいます。(写真2、写真3)
図1 パッシブ・トリートメント技術の概念図
写真1 導入事例
坑廃水処理のコスト削減の実現に向けて、坑廃水の水量削減や水質改善を目的とした発生源対策の実施や、パッシブトリートメントの導入が期待されています。また、鉱害防止事業の更なる効率化のため、新たな坑廃水処理の管理手法や環境影響評価手法の検討が進められています。そこで、JOGMECは、経済産業省から「休廃止鉱山における坑廃水処理の高度化調査研究事業(平成30年度~令和2年度)」や「令和3年度産業保安等技術策定研究開発等(休廃止鉱山におけるグリーン・レメディエーション(元山回帰)の調査研究等事業)」を受託し、モデル鉱山におけるパッシブトリートメントの実証試験やシミュレーションモデルを活用した地下水流動解析の実施、さらには新たな緑化技術の検討や利水点等管理について検討し、得られた知見や有識者からの意見を取りまとめ、それぞれの技術についてガイダンスを作成しました。
休廃止鉱山においては、坑廃水を無処理のままで河川等へ放流すると下流の公共水域において人の健康や農産物等に被害を与える恐れがあるため、地方公共団体等が中和処理等の鉱害防止事業を実施していますが、中長期にわたる国民経済負担の軽減という観点から、リスク評価を踏まえた処理コスト削減に向けた取り組みが重要な課題となっています。
JOGMECでは、地球化学モデリング等を用いた水質予測モデルの作成や、パッシブ・トリートメント技術の金属除去能力の検証やそのモデル化、また、鉱山跡地における緑化対策技術の開発、並びに坑廃水中和殿物の減容化あるいは有効利用法の開発等に関するテーマ等で共同研究相手先を公募・採択し、実施しています。
鉱害防止事業におけるカーボンニュートラルの推進に資する技術の開発
休廃止鉱山における坑廃水処理事業等においても様々な場面で温室効果ガスを排出しており、鉱害防止事業におけるカーボンニュートラルの推進の観点からは対策の余地が残されております。
JOGMECでは、本観点に基づく技術開発の一環として、従前より二酸化炭素の固定や低炭素型中和剤の開発のほか、坑廃水処理によって生じた汚泥の再利用に向けた調査研究に取り組んでおります。