「海底熱水鉱床開発計画第1期最終報告書」の取りまとめ
JOGMEC(本部:東京都港区、理事長:河野博文)は、経済産業省の委託を受け、平成20年度から5年間にわたり、我が国周辺海域に賦存する海底熱水鉱床の資源量の評価や、環境影響に配慮した開発技術の検討などを実施しました。海底熱水鉱床開発計画の第1期を終了するにあたり、5年間の取組成果について総合的に評価を行い、このたび、第1期の最終報告書を取りまとめ、経済産業省のホームページに公表されましたので、お知らせします。
我が国周辺海域に賦存する海洋鉱物資源は、開発が可能になれば、海外に資源供給の太宗を依存している我が国にとって、新たな供給源となるため、その開発に期待が高まっています。そのため、経済産業省は、平成21年3月に策定した「海洋エネルギー・鉱物資源開発計画(平成21年3月総合海洋政策本部会合了承)」の中で、特に海底熱水鉱床の開発については10年計画(平成24年度までを第1期、平成25~30年度までを第2期)を定めました。
海底熱水鉱床の開発に向けての取組みは、経済産業省からの委託を受けたJOGMECが中心となり、研究機関、大学、民間企業の協力の下、資源量評価、環境影響評価、採鉱技術及び選鉱・製錬技術に係る広範な検討を併行して実施してきました。また、開発計画を効率かつ効果的に推進するため、JOGMEC内に有識者からなる「海底熱水鉱床開発委員会」を設置し、計画立案、進ちょく、結果の評価について、意見聴取しつつ、事業を推進してきました。
参考1:「海洋エネルギー・鉱物資源開発計画」について
海洋基本計画(平成20年3月閣議決定)に基づき、メタンハイドレート、海底熱水鉱床等の商業化に向けた探査・技術開発に係る道筋(ロードマップ)等を示したものです。
海底熱水活動により形成された多金属硫化物鉱床で、特に銅、鉛、亜鉛、金、銀などの重金属が濃集して含まれており、その成因は海底下のマグマ活動に関連すると言われています。これまで、日本近海では、沖縄海域、伊豆・小笠原海域等の水深700~3,000mに発見されています。
海底熱水鉱床にかかる開発計画(第1期)の評価結果のポイント
ボーリング調査断面図
(マウンドの裾野から打った2本の深部ボーリング調査で新鉱体を発見)
沖縄海域伊是名(いぜな)海穴及び伊豆・小笠原海域ベヨネース海丘を中心に、海洋資源調査船「第2白嶺丸」、平成24年2月に竣工した「白嶺」等を用いて、高精度の地形調査、海底電磁探査、ボーリング調査等を実施しました。特に、沖縄海域伊是名海穴内での121本のボーリング調査等から、海底表層部の資源量(鉱石重量)を340万トンと推定しました(かつて秋田県で操業していた中規模黒鉱鉱床「深沢鉱床」と同規模)。
さらに、平成25年1月には、「白嶺」による深部ボーリングで海底面下に新鉱体を発見しました。今後、深部の新鉱床の資源量を明らかにすることによって、表層部と深部を合わせた全資源量は、中間評価で算定した500万トンを上回る可能性があります。これらの調査結果は、「我が国の経済水域に同規模の海底熱水鉱床が10か所、全体で資源量5,000万トン」という中間評価の推定を超える可能性があります。
環境影響評価 -採掘要素技術試験に先立ち環境影響踏査を実施-
沖縄海域伊是名海穴、伊豆・小笠原海域ベヨネース海丘及びその周辺海域において、20航海の環境調査を実施し、当該海域の環境特性を把握しました。実海域における採掘要素技術試験においては、国際水準以上の項目について環境影響評価を事前の影響予測モデルの活用を含めて実施したところ、周辺環境に対して深刻な影響は認められませんでした。
採鉱技術 -採掘要素技術試験の成功と採鉱システムの提案-
採鉱技術を構成する採掘・揚鉱・採鉱浮体システムについて、中間評価時の予備的経済性検討の商業採掘規模1日5,000トンをもとに、最適方式を検討しました。特に実海域で採掘試験機を用いて、世界初の走行・掘削試験に成功し、将来の実機開発に向けて有意義なデータを取得しました。一方で、懸濁下での可視化技術の開発や揚鉱技術の本格開発など、新たに解決すべき技術課題も抽出されました。
採掘要素技術試験概念図(左)と海底を走行する採掘要素技術試験機(右)
沖縄海域伊是名海穴及び伊豆・小笠原海域ベヨネース海丘から採取された31種類の試料を用いて、研究室規模での選鉱・製錬基礎試験を実施し、多様な鉱物からなる鉱石の選鉱特性を把握するとともに、ラボ~ベンチスケールでの有用金属の分離試験等を実施し、その特性に応じた選鉱・製錬フローを提案することができました。さらに、選鉱パイロットプラント、実選鉱場の概念設計を実施しました。また、有害物質の処理、貴金属回収等の技術課題も明らかになりました。一方、ボーリング調査等の結果、新鉱床発見という新しい知見が得られる一方で、複雑な鉱物組成を持った鉱石であることが確認され、既存の黒鉱処理で使われていた選鉱・製錬方法が有効であるかどうかはさらに検証が必要であることが分かりました。
以上、これらの結果を総合すれば、第1期は所期の目標に対して十分な成果が得られたものと判断され、第2期に移行することが妥当であると判断しました。
- 資源量評価
沖縄海域伊是名海穴及び伊豆・小笠原海域ベヨネース海丘で、鉱床周辺及び深部でボーリング等を行い、先般発見した深部鉱床を含めた海底熱水鉱床の全体像を調査し、詳細資源量を把握する必要があります。また、資源量拡大のための広域探査を沖縄海域、伊豆・小笠原海域等で実施し、詳細な資源量評価が必要となる有望な海域を早期に抽出する必要があります。
- 環境影響評価
不足する環境基礎データを取得するとともに、予測モデルの精度向上を行う必要があります。また、環境影響評価法の妥当性の検証や改良に取り組み、評価法を確立させる必要があります。さらに、生物多様性の保全策について国際的な合意形成に努めていきます。
- 採鉱技術
採掘試験機の改良・高度化に取り組むとともに、複雑な鉱床形態に対応するため、採掘・集鉱・破砕・揚鉱技術の検討、機器製作、陸上・洋上試験に取り組む必要があります。また、採鉱技術全体の検討を行い、実海域で連動実験を行う計画です。
- 選鉱・製錬技術
従来の研究室規模からベンチスケール試験等によるスケールアップ等により、選鉱・製錬技術の実用化に向けた研究開発を行い、有害元素処理や貴金属の回収等の課題解決を含め、最適プロセスを検討する必要があります。また、選鉱パイロットプラント・製錬連動試験を実施する必要があります。
この記事に関するお問い合わせ先
金属資源技術部大岡・岡本
電話 03-6758-8031
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