特集1:米ぬかともみがらの活用で日本の鉱害防止事業が変わる!坑廃水処理の新常識(1)
JOGMECプロセスの実証試験の設備
JOGMECでは鉱害防止事業の効率化とコスト低減を目的に、坑廃水処理に関する新たな技術の研究開発を進めてきた。ここでは、実証試験に成功した「JOGMECプロセス」を紹介する。
米ぬかともみがらが鍵となる日本に適した坑廃水処理の新技術
日本では、79カ所の休廃止鉱山で、河川に坑廃水が流出し、鉱害が発生することを防ぐため、坑廃水処理が行われている。坑廃水とは、休廃止鉱山から排出される、有害な金属を含む水のこと。雨水や地下水の影響で染み出した、金属を含む有害な水が河川に流出することを防ぐため、酸性度を下げたり金属を除去するなど適切な処理が行われている。日本の多くの坑廃水処理施設では、処理に薬剤を使う方式を採用しているが、薬剤や電力、設備の保守点検などに毎年莫大なコストが必要になる。加えて、坑廃水処理は半永久的に続く「利益を伴わない事業」であり、処理を行う民間企業や地方自治体にとって、コストや労力の削減は喫緊の課題となっている。このような中、2008 年からJOGMECが研究開発を進めてきたパッシブトリートメント技術「JOGMECプロセス」が実証試験に成功し、全国にある休廃止鉱山への導入に向けた期待が高まっている。
JOGMECプロセスは、自然の力で坑廃水を処理するパッシブトリートメントと呼ばれる技術のひとつ。電力や薬剤を必要としないことから、コストや管理の手間が小さく環境負荷も低いという特徴を持つ。一方、広い敷地が必要で、急峻な地形の多い日本では導入が難しいとされてきた。JOGMECは長年の研究開発の末、課題を解決する手法を考案し、導入のハードルを大きく下げることに成功したのだ。
JOGMECプロセスは、“ 硫酸還元菌”という微生物を活用し亜鉛、鉛、銅、カドミウムなどの金属を除去するプロセスで、処理する坑廃水に鉄が多く含まれる場合は、前処理として“ 鉄酸化細菌”を活用したプロセスを組み合わせることもある。
ここでポイントとなるのが、硫酸還元菌を活用して金属を除去する反応槽に、「米ぬか」と「もみがら」を入れること。硫酸還元菌には餌となる有機物が必要で、その餌により活性度(坑廃水から金属を取り除く力)が異なることがわかっていた。廃棄物として扱われる米ぬかを採用することで、小さなコストで硫酸還元菌の活性度を大幅に向上させることに成功。その下には硫酸還元菌のすみかとして、同じく廃棄物として扱われるもみがらを敷き詰め、より多くの硫酸還元菌を定着させることで、処理能力の安定化も実現した。一般的に微生物の活性が低下するとされる冬季でも安定的な坑廃水処理が可能となるなど、処理能力の向上(高速化)と安定化に成功したおかげで、急峻で狭い日本の環境でも導入できる可能性が高まったのだ。
JOGMECプロセスの実証試験では、鉄や亜鉛、鉛、銅、カドミウムなどの金属が含まれる100リットル/分の坑廃水を365日処理し続けることに成功。JOGMECでは経済産業省から委託され、これまでの成果を踏まえて、パッシブトリートメント導入に関するガイダンスを作成した。今後は、これまでに蓄積した知見や、新たに作成したガイダンスを活用し、日本各地の坑廃水処理施設へパッシブトリートメントが導入され、坑廃水処理コストが大幅に低減されることを目指している。
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一般的な坑廃水処理 |
JOGMECプロセス |
電力(動力) |
必要 |
不要 |
薬剤 |
常時添加 |
常時添加は不要 |
設備 |
多くの装置が必要 |
シンプルな構造物のみ |
メンテナンス |
高頻度 |
低頻度 |
管理の難度 |
厳密なプロセス制御のもとで水質管理 |
定期的な水質確認のみ |
処理の柔軟性 |
水量や水質の変化に対応しやすい |
管理は容易だが水量や水質の変化に弱い |
全国79 の休廃止鉱山で半永久的な坑廃水処理が必要
かつて日本には、全国各地に鉱山があり、世界有数の銅や銀の生産国であったことはご存じだろうか。現在はそのほとんどが休止あるいは閉山しており、このような「休廃止鉱山」は日本全体で約5,000カ所にものぼる。そしてそのうちの79カ所では、現在でも重金属を含有する坑廃水が出続けており、適切な処理が行われている。そうした鉱山を保有する民間企業や地方自治体は、坑廃水の処理に年間数億円規模のコストをかけなくてはならない。今後も半永久的に続くと予想されている社会問題のひとつだ。

かつて「東洋一の硫黄鉱山」と呼ばれた旧松尾鉱山の新中和処理施設。岩手県よりJOGMECが委託され、強酸性の坑廃水の処理を続けている