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2022年の石油市場を振り返る(2)

2022年の石油市場を振り返る(2)のイメージ図

ロシアによるウクライナ侵攻

2022年2月24日、ロシアによるウクライナへの侵攻が始まりました。言うまでもなく、ロシアは世界有数の石油産出国です。今回の事態によって石油供給のバランスはどのように変化し、各国はどのように対応し、石油市場はどう推移していったのかを解説します。
2022年-原油価格の推移グラフ

日本の1 日分の石油消費量がマーケットから消える懸念

 ロシアによるウクライナへの侵攻を受け、欧州や米国を含む西側諸国等は、石油を含むエネルギー、金融、技術供与、物品に関する対ロシア制裁に踏み切りました。これは同時に「西側諸国等への報復措置として生産量世界第3位のロシアからの石油供給が削減されるのではないか」という懸念を石油市場に拡大させることとなり、石油価格が一時的に高騰する結果を招きました。

 実際、2022年3月16日には、IEA【KEYWORD(1)】が、ロシアの石油生産量が日量300万バレル【KEYWORD(2)】減少するという見通しを明らかにしています。ちなみに300万バレルとは、2021年時点のロシアの欧州、米国および日本向け輸出量の合計、もしくは日本の一日の消費量とほぼ同量であり、国一つ分の石油が足りなくなることを意味します。こうした懸念により、石油価格は3月の時点で1バレル当たり123.7ドルとなり、2008年に1バレル当たり150ドル近辺の史上最高水準に達した時以来の高値に到達しました。2022年初頭には1バレル当たり80ドル前後で推移していたので、3月の高騰がどれほどだったのかがお分かりいただけると思います。
2022年 石油産出国トップ5のグラフ

石油産業の成熟化が市場安定化に寄与

 価格高騰を受け、3月、米国は石油1.8億バレルを5月1日から半年間にわたり供給すると発表。さらに他のIEA加盟国も、各国で備蓄していた石油を供給するという対応策に乗り出しました。また、当初懸念されていたロシアの石油生産量が、日量300万バレルではなく30万バレル程度の減少にとどまることも分かってきました。こうした経緯により、世界中が不安視していた石油供給が不足するという事態は回避されることとなり、6月あたりまで高値止まりしていた石油価格も次第に落ち着いてきました。侵攻開始から1年を経た2023年2月24日の価格は1バレル当たり76.32ドルと、2022年の最高値から約40%程度の下落となっている他、侵攻開始日の価格(92.81ドル)をも相当程度下回る状態となっています。

 ロシアによるウクライナ侵攻は世界に衝撃を与え、石油市場にも大きな影響を及ぼしました。しかしながら、備蓄石油の供給といった方策の実施等に加え、石油そのものが持つ特徴、石油産業と市場の成熟が、今回の危機回避に作用していると考えられます。

常温常圧で液体であることが、石油不足を回避させた

 それでは、石油そのものが持つ特徴、石油産業と市場の成熟とはどのようなものなのでしょうか。まず石油の特徴とは、他のエネルギーと異なり、常温常圧で液体であるという点です。このため、石油は貯蔵や輸送のためのインフラ構築が比較的容易という利点があります。他方、例えば天然ガスは常圧常温では気体であり、タンカーに気体のまま積載することは現実的ではありません。マイナス162度以下に冷却して体積を600分の1にすることにより、タンカーでも輸送可能となりますが、そのためには液化施設、再ガス化施設、および保冷機能を有した特別な仕様のタンカーといった追加のインフラが必要となります。

 石油産業と市場は約160年にわたって進化してきた歴史もあり、その間さまざまな技術開発やインフラ整備、物流網の拡充が進められてきました。その結果、特に需給が緩和されている地域から引き締まっている地域へと石油が円滑に流れることにより、さほど時間をかけずに需要と供給のバランスが均質化することから、世界において事実上統合された市場が形成され、石油価格も世界的にほぼ単一なものへと収束しやすくなっています。また、貯蔵が容易なこともあり、備蓄体制が整備されていることも供給の安定度を高め、柔軟な供給体制の確立に寄与する格好となっています。

 ウクライナ侵攻後、ロシア産石油の輸入禁止という制裁の実施により、西側諸国等にはロシア産石油の大半が供給されなくなりました。また、この制裁の発動前でさえ、一部の民間石油企業などがロシア産石油に対する取引を敬遠するようになっていました。これは、ロシア産石油を引き取ることで評判リスク(石油収入が巡り巡ってロシアの戦費へと変化すること)が発生し、企業の評価が下がるのを民間石油企業が回避しようとしたことによります。

 この結果、買い手が限られるようになったロシア産石油の価値が下がりました。例えばロシア産石油価格は北海ブレント【KEYWORD(3)】やWTI【KEYWORD(4)】といった代表的な原油の先物商品価格に対し、1バレル当たり30ドルも下回る場面が見られました。

 そして、西側諸国等で引き取られずに割安になった石油は、対ロシア制裁を発動していない中国やインドといった主要石油消費国が引き取るようになりました。特に2021年時点は日量10万バレル程度であったインドのロシアからの石油輸入は、2022年末には日量100万バレルへと大幅に拡大したのです。このように、西側諸国等で引き取られなくなった石油を中国やインド等が引き取る代わりに、中国やインドが引き取らなくなったロシア産以外の石油が西側諸国等に回り込むことにより、石油の供給が平準化されました。

 さらに、最初にお話ししたように米国をはじめとするIEA諸国の緊急時備蓄からも石油が供給されました。そして、輸送体制等が確立していることにより、今回のような危機的な事態に直面しても、世界における石油供給の不均衡が比較的速やかに是正され、石油市場を平準化するとともに、価格の高騰を沈静化することに大いに役立ったものと考えられます。
KEYWORD解説

(1)【IEA】(あい・いー・えー)
InternationalEnergyAgencyの略で、日本語では、「国際エネルギー機関」。主要石油消費国から構成されるエネルギーの共同行動機関で、1970年代以降のOPEC諸国の攻勢に対抗する形で合意された「国際エネルギー計画」(IEP)を遂行するために、OECDに付属する独立機関として1974年11月18日創設された。IEAの参加要件は、OECD加盟国(現在38か国)であって、かつ、備蓄基準(前年の当該国の1日当たり石油純輸入量の90日分)を満たすこととなっている。

(2)【バレル】(ばれる)
「バレル」とは、英語の「barrel」、日本語では「樽」を意味する。近代的石油産業は、19世紀の半ばに米国で発足したが、当時、生産された原油を運搬するのに、酒などを入れる容器としては最も一般的だった木製の樽が用いられたので、売買取引は、樽単位で行われるようになり、その結果、バレルが石油産業の標準単位となった。国や中身によって1バレルの量は変わってくるが、原油の場合、1バレルは約159リットル。

(3)【北海ブレント】(ほっかいぶれんと)
英国沖合の北海にあるブレント油田から産出される硫黄分が少ない高品質な原油のこと。欧州産標準油種で、米国産のWTI、中東産のドバイと並ぶ原油価格の代表的な指標の一つで、インターコンチネンタル取引所(ICE)傘下のICEフューチャーズ・ヨーロッパで北海ブレント先物原油が上場され取引されている。

(4)【WTI】(だぶりゅー・てぃー・あい)
WestTexasIntermediateの略で、米国テキサス州とニューメキシコ州を中心に産出される高品質な原油のこと。WTIの価格は欧州産の北海ブレント、中東産のドバイと並び世界の代表的な原油価格の指標の一つとなっている。また、ニューヨーク商業取引所で先物取引対象として上場されている。

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