世界を席巻した新型コロナウイルスの問題。特に中国は複数の大都市においてロックダウンを含む個人の外出規制や経済活動の制限といった厳格なゼロコロナ政策の実施へと踏み切りました。石油消費国世界第2位の中国が行った今回の措置が石油市場にどのように影響したのかを見ていきます。
中国は、新型コロナウイルス感染者をゼロにすることを宣言し、国民に対する厳しい外出規制、工場や商業施設の閉鎖といった経済活動の制限を徹底的に行う政策に踏み切りました。中国がこうした強硬策を断行したことは、ウクライナ問題による石油の需給ひっ迫を緩和させる要因の一つとなりました。
都市封鎖の実施により、中国では個人の自家用自動車、バスや航空機などによる往来が極度に落ち込むとともに、石油化学製品などの物品製造を行う工場の稼働停止や、トラックなどによる物流の活動が低下しました。このため、ガソリンや軽油、灯油、ジェット燃料の利用が極端に減り、石油消費大国による石油消費活動が大幅に抑制されてしまったのです。2022年の中国石油需要は、前年比で日量47万バレル増加するものと見込まれていましたが、実際には前年比で日量42万バレル減少となり、大きく需要の下振れが発生したのです。
2022年の石油価格の高騰は、別の面からも石油需給に影響を与えました。原油を原料とするガソリン等の自動車用燃料の小売価格が上昇、例えば、米国では2022年6月13日に1ガロン(約3.8リットル)当たり5.107ドルと統計史上最高水準に到達しました。ちなみに1ガロン当たり3ドルを超えて同国のガソリン小売価格が上昇を続けるようだと、米国民は不満を持ち始め、その不満が政権に向かいやすいとされています。
ガソリン小売価格の高騰が一因となって物価の大幅上昇を招いたことにより、各国および地域の金融当局は政策金利を引き上げることで経済を減速させて物価上昇の沈静化を図りました。そして、経済減速とガソリン等の価格高騰もあり、2022年1月時点では日量163万バレル増加すると見られていたOECD諸国の石油需要は、実際には日量117万バレルの増加にとどまったのです。このように世界石油需要が当初の予想ほど伸びなかったことも、石油需給の緩和感を市場で醸成させ、石油相場を抑制する形となりました。
今後の懸念は、ゼロコロナ政策緩和による石油需給バランスの乱れ
こうして石油市場は一応の落ち着きを取り戻しているようにも見受けられますが、日本のエネルギー情勢、そして経済に対する不安が払拭されたということではありません。ロシアのウクライナ侵攻はまだ終結しておらず、今後も西側諸国等による対ロシア制裁の強化、およびロシアによるエネルギーを武器として利用した報復措置の実施、といったシナリオが排除しきれていません。また、中国がゼロコロナ政策を大幅に緩和していますが、同国で個人の外出が活発化したり経済活動が回復したりする結果、これまで抑え込まれていた石油需要が大幅に拡大する可能性もあります。
このような要因から、石油供給が減少する一方で石油需要が急激に高まることにより、石油需給バランスが一時的にせよ乱れ、石油価格を上振れさせるような圧力が加わるといった展開も想定されます。2022年の石油価格高騰に伴い物価が上昇したことにより、政策金利が引き上げられ、経済が減速する方向に向かいつつありますが、その過程において石油価格が上振れし、さらに政策金利の引き上げが継続するようだと、なお一層世界の経済活動に悪影響を及ぼし続けることもありえます。このため、引き続きロシアのウクライナ侵攻を含め世界の情勢に注目していく必要があります。