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2022年の石油市場を振り返る(4)

石油市場のこれからと暮らしへの影響、そして中長期的視点

2022年を振り返り、激動ともいえる時代の波に遭遇し敏感に反応する石油市場の推移を見てきました。ではこれから先、中長期的に石油市場についてどのように考えていけばいいのか。その変動は私たちの暮らしにどう影響するのか。そういった視点から、今後の石油市場を展望します。

長引くかもしれない国際情勢への不安に対し、難局を乗り切るべく知恵を出し続けることが重要

 先にお話ししたように、これからの石油市場における懸念材料として挙げられているのは、ロシアによるウクライナへの侵攻が継続し、かつ長期化するかもしれないという見通しです。西側諸国等による対ロシア制裁強化に対しロシアがエネルギー面を含め報復措置を講ずることに加え、西側諸国等による技術面や物品面での対ロシア制裁の実施によりロシアの石油開発が停滞し、その結果、中長期的に同国の石油供給が伸び悩む可能性があります。

 こうした中、新型コロナウイルスの問題が徐々に収束に向かい、石油消費量世界第2位の中国が石油需要を回復させつつあります。同時に、今までロシアの天然ガスに頼っていた西欧諸国等において、ウクライナ侵攻に伴いロシアが欧州向けのパイプライン経由の天然ガス供給を大幅に削減したこと等もあり、相対的に高価となりやすい天然ガスの代わりに石油の利用を促進する結果、石油需要が膨らむことも否定できません。

 こうした懸念材料がこれからも払拭されないことを考慮すると、2023年は後半を中心として、日本を含む世界の石油需給が引き締まり、石油相場を押し上げる力が加わり始めるといった展開も想定されます。これに対しOPECプラス(石油輸出国機構(OPEC)加盟国およびOPECを支持する一部の非OPEC産油国)が増産措置の実施を発表すれば、ロシアから途絶えた石油供給の穴埋めが行われることとなり、石油需給が緩和する見通しから石油価格の上昇は抑えられるかもしれません。しかし石油の売り手であるOPECプラス加盟国は、石油販売価格の高値安定を望むと見られ、増産に消極的な動きに出ることも十分考えられます。この結果、石油需給の引き締まり感が解消しないとともに、石油相場を押し上げる力が加わり続けることも予想されます。
  • イメージ画像1 タンカー
  • イメージ画像2 緑
  • イメージ画像3 ガソリン

いくつものエネルギーの柱を構築することが、子供たちの未来を支える

 その一方で、石油産業と石油市場は、取り扱いが容易な石油そのものの特長を活かし、長期にわたり石油生産、輸送、備蓄に関する技術開発を行い、インフラ整備、物流網の拡充を進めてきました。また、IEA加盟国では90日分の石油備蓄が加盟基準として定められていますが、特に日本では国家備蓄だけで129日分(民間備蓄等を合わせれば222日分)の石油が担保されています。このようなことから、1970年代の第1次および第2次石油危機時と比較しても、日本を含む消費国の石油供給途絶に対する対応力は大幅に強化されています。

 ただ我が国においては気を付けなければならない点があります。それは、日本が石油消費量世界第6位の国であるにもかかわらず、自国内には石油資源がほとんど存在せず、消費する石油のほぼ全てを海外からの輸入に依存しているという点です。

 日本の場合は、輸入する石油の9割を中東(サウジアラビア、アラブ首長国連邦、カタール、クウェート、イラク、オマーンなど)に頼っています。このため、今回のロシア制裁とロシアの対抗措置による直接的な影響は大きくありませんでした。しかし、その中東を巡る情勢も必ずしも安定しているとはいえません。イランとサウジアラビアが外交正常化を発表しましたが、イランの核開発問題を巡るイランと西側諸国等との協議は事実上中断したままです。この地域の産油国等が新たな紛争状態に陥れば、油田関連施設への攻撃が行われ、日量数百万バレルの石油供給が停止するといった状況に陥ることもありえます。実際に、こうした展開は2019年9月に発生しており、この時は世界石油生産の約6%に当たる日量570万バレルの供給が一時停止し、世界石油市場において緊張が高まりました。

 将来に向けた不安要因を払拭しきれない状況を踏まえ、日本は特定の地域からの石油輸入に大きく依存するのではなく、供給源の多様化を進めるべく努力していく必要があると思います。
 
 また、エネルギーの供給源の多様化と同時に考えなければならないのが、省エネルギーの推進に加え、多様なエネルギー源の利用促進です。変動する石油市場に左右されず、さらに人類にとって喫緊の課題である地球温暖化を回避し、未来への持続可能な社会を形成するためには、石油依存過多から脱却することが不可欠となってきます。それに向けて、地熱発電や風力発電といった再生可能エネルギーの開発と整備が、現在政府や政府関係機関、自治体、さまざまな企業によって進められています。

 あわせて、石油開発や石油利用においても、カーボンニュートラルに貢献する技術開発を早急に進めていかなくてはなりませんが、製油所や発電所から排出されるCO2を分離回収し、地中深くに圧入・貯留するCCS(Carbon Captureand Storage)という技術開発も進められています。

 今後も日本が経済発展し続け、私たちが安心して暮らせる社会を維持するためには、当面は産業を支えるエネルギーとして石油を主柱に据えておく必要がありますが、加えていくつものエネルギーの柱、それもCO2排出を最小限にとどめる柱を構築すること、そのための取り組みを進めていくことが、未来の子供たちへの不安のない豊かな社会の継承へとつながると考えています。

 そして、対応力が改善しているとはいえ国内の石油等の資源に乏しい日本は、依然として世界エネルギー需給ひっ迫の影響を受けやすい側面があります。油田の開発事業や新エネルギーの研究事業は長い期間と多額の資金を必要とすることもあり、エネルギー情勢が混乱し始めてからの対応では手遅れとなる可能性もあります。石油等のエネルギー価格が落ち着いている時でも、日本の中長期的な将来のエネルギーの安定供給確保について常日頃から十分に意識するとともに、必要な対策につき知恵を出してそれを実行に移し続けていく、という姿勢が重要なのではないでしょうか。

(注)本記事の内容は2023年3月10日時点のものです。
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  • 野神隆之 画像

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