法改正で何が変わる?新たにCCSや水素に挑む「新生JOGMEC」
2022年5月の通常国会において、石油天然ガス・金属鉱物資源機構法が改正され、11月14日に施行されました。それに伴い、これまでJOGMECが担ってきた役割が強化されました。そこで今回は、新生JOGMECが新たに果たす役割について紹介します。
旧石油公団と旧金属鉱業事業団が合併し、JOGMECが設立されたのは2004年のこと。以来JOGMECは、約20年、その姿を社会情勢に合わせて変化させながら、「日本の資源エネルギーの安定供給の確保」というミッションを推進してきました。
たとえば、2010年には、中国で金属の需要が激増したことから、日本への金属資源の安定供給を確保するため、日本企業への出資による支援の範囲を拡大しました。また、2011年に東日本大震災を経験し、石油をはじめとしたエネルギーの安定供給を確保するためには、災害時の石油供給体制等の整備を一層強化する必要があることが明らかとなったことから、資源開発に係る支援機能の集約化・整備等の一環として、2012年、JOGMECに新たに地熱部門と石炭部門が設置されました。
そして2022年11月、「カーボンニュートラル」の実現に向けて新たな「改正法」が施行され、JOGMECの名称が「独立行政法人 エネルギー・金属鉱物資源機構」に変更されました。それに伴い、業務内容がさらに強化・拡張されることとなり、資源エネルギーの安定供給の確保とカーボンニュートラルという2つの命題の両立を図っていくこととなりました。
- 組織概要
組織名 |
独立行政法人 エネルギー・金属鉱物資源機構 |
読み方 |
どくりつぎょうせいほうじん えねるぎー・きんぞくこうぶつしげんきこう |
英文組織名 |
Japan Organization for Metals and Energy Security |
所在地 |
〒105-0001 東京都港区虎ノ門2-10-1 虎ノ門ツインビルディング |
今回の法改正で追加された、JOGMECの5つの役割を紹介します。
1.CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)
JOGMECが地質構造調査を行うとともに、本邦企業のCCS事業を出資・債務保証で支援します。
CCSとは、発電所や製油所、石油ガスの生産設備や化学プラントなどで排出された二酸化炭素(以下CO2)を分離・回収して地下に貯留する技術で、カーボンニュートラルの達成に必要不可欠な存在として、世界中で研究開発が進められています。
そこでJOGMECは、これまで得られた知見を活かし、海外では陸域と海域、国内では海域を対象に、CO2を貯留するための地質構造調査(適地調査)を行います。合わせて、CCS事業を担う本邦企業を出資、債務保証でも支援し、国内企業がリスクの高いCCS事業を推進できる環境を整えます。
そのほか、国内外のCCS関連機関と連携し、ネットワークの構築や国際的なルールづくりなどにも取り組んでいきます。
本邦企業が国内、海外を問わず実施する水素・アンモニア等の製造及び貯蔵プロジェクトへのリスクマネー供給と、情報収集や技術開発などJOGMECの有する支援機能を連携することで、国内企業による水素(H2)・アンモニア(NH3)のサプライチェーンの構築を目指すとともに、安定供給の確保を推進します。
水素・アンモニアは発電分野だけでなく、輸送用燃料としても期待が高まっている
現在、火力発電所で使われている化石燃料は、燃焼させるとCO2を排出することから、燃焼してもCO2を排出しない水素やアンモニアに置き換える動きが強まっています。また、同じ理由で、水素・アンモニアは輸送用の燃料としても期待されています。
一方、水素・アンモニアの需要を拡大するには、大量かつ安価に製造できるという供給側の体制が前提となります。また、化石燃料を原料とした製造の際に発生するCO2を分離・回収・貯留(CCS)することも必要とされています。さらに、LNG(液化天然ガス)同様に、海外で製造して日本に輸送する場合、「製造・液化・輸送・貯蔵」というバリューチェーンを構築しなければならないなど、普及には多くの課題が残されています。
そこでJOGMECでは、水素・アンモニアの製造、貯蔵に関わる事業にリスクマネーを供給するとともに、産資源国との関係強化、情報収集・提供という形で本邦企業を強力に支援し、水素・アンモニアの安定供給を目指します。
水素・アンモニア事業におけるJOGMECの支援対象と役割
本邦企業が進める水素・アンモニアの製造と貯蔵事業を出資・債務保証で支援し、本邦企業によるバリューチェーンの構築を目指します。合わせて、これまでJOGMECが培ってきたネットワークや技術開発の経験を活かし、情報収集や技術調査・開発、産資源国との関係強化を行います。
洋上風力発電事業のための風況及び地質構造調査を実施し、その調査結果を、国内で洋上風力発電事業を実施しようとする企業に提供することで、洋上風力発電の活用を推進します。
島国である日本には、洋上風力発電に大きな可能性がある
カーボンニュートラルを実現する上では、自然の力を活用した再生可能エネルギーの普及が不可欠です。再生可能エネルギーにはさまざまな種類がありますが、そのひとつ、島国である日本の特性を最大限に活かせる洋上風力発電には、大きな期待がかかっています。
洋上風力発電を安全に設置するには、海域の風況及び地質構造を調べることが第一歩です。JOGMECはこれまで、石油、メタンハイドレート、海洋鉱物資源といった海洋資源の探査・開発を進めてきました。そこで得た知見を活かし、日本における洋上風力発電に関する風況及び地質構造調査を行うことで、洋上風力発電の拡大を目指していきます。
これまで行ってきた金属分野での取り組みに加え、本邦企業による国内の製錬事業等に対し出資、支援することで、レアメタルやレアアースのさらなる安定供給確保を目指します。
EVや再生可能エネルギーの拡大とともにレアメタルの供給確保の難度は高まっている
近年、ガソリン車からEV(電気自動車)への世界的な移行に伴い、蓄電池に使われるリチウムやコバルト、ニッケル、モーターの磁石に使われるレアアースなどレアメタルの需要が急拡大しています。
今後、リチウムなどレアメタルのさらなる需要拡大が予想される中、国内において、使用済み製品に含まれる有用な金属資源(都市鉱山)のリサイクルを促進すること等によって、海外からの金属資源の供給リスクを低減する必要があります。そのためには、日本国内でも、選鉱・製錬拠点を確保しておくことが重要です。
JOGMECではこれまで、本邦企業等による海外での金属鉱物の選鉱・製錬を支援してきました。しかし、海外での支援だけでは不十分であることから、JOGMECでは、本邦企業等が進める国内における選鉱・製錬事業等への支援も行っていく計画です。
本邦企業による海外での地熱探査事業へ出資することで、大規模開発等に必要な技術・ノウハウを獲得、還流することにより、国内での大規模地熱開発を推進します。
アイスランドのブルーラグーンに隣接する地熱発電所
地熱発電は、ベースロード電源としての機能を果たすことができる貴重な再生可能エネルギーです。火山大国日本における地熱資源のポテンシャルは世界有数であり、今後、日本国内における大規模な地熱発電所の設置が期待されています。
一方、これまで国内で開発された地熱発電事業は、ニュージーランドやアイスランド、インドネシアといった地熱先進国の事例と比べると、比較的中~小規模です。今後、カーボンニュートラルとエネルギーの安定供給の両立を目指すには、より規模の大きい地熱開発が欠かせません。
そこでJOGMECでは、海外で大規模な地熱発電の探査事業を行う本邦企業を支援し、海外の大規模な地熱開発を通して得られた技術やノウハウを日本の地熱開発に活かしてもらうことで、国内の大規模地熱開発を推進します。
新生JOGMECはカーボンニュートラルの実現に向け資源エネルギー支援を推進
世界の社会情勢が変化し続ける中、カーボンニュートラルの実現と、経済性の両立は至難の業です。カーボンニュートラルは前例のない大きな挑戦であり、多くのリスクが存在することから、JOGMECは、資源開発とともにカーボンニュートラルに積極的に取り組む意欲をお持ちの企業の皆様を強力に支援し、幅広い資源・エネルギーの開発支援を担う機関として、地球の未来に貢献していきます。新生JOGMECにご期待ください。