カーボンニュートラルに不可欠な「CCS」
仕組みや国内外の状況など基本を解説!
日本では2022年5月、「安定的なエネルギー需給構造の確立を図るためのエネルギーの使用の合法化等に関する法律等の一部を改正する法律」が公布され、「2050年カーボンニュートラル」を目指すこととなりました。そのためのロードマップでは、2030年度のCO2排出量を2013年度比で46%削減、そして2050年カーボンニュートラルに向けては、あらゆる産業分野においてCO2排出量を大幅に削減していく必要があるとされています。この高い目標を達成するための切り札として、今、「CCS」という技術が注目されています。そこで今回は、CCSに関する基礎知識と国内外における現在の動向を紹介しましょう。
CCSとは、“Carbon dioxide Capture and Storage”の略で、CO2を「分離・回収(Capture)」し、「貯留(Storage)」する技術です。脱炭素化が困難な火力発電所や製油所、製鉄所、化学工場、ごみ処理施設などから排出されるCO2を分離・回収し、貯留層と呼ばれる地下の安定した地層に閉じ込めることで、大気中に放出されるCO2を大幅に削減しようというものです。カーボンニュートラルの達成に不可欠な技術として、世界中で研究開発、実証、および商業操業が進められています。
CCSの概念図
「貯留(Storage)」せずに「有効活用(Utilization)」することはCCUと呼ばれます。これはカーボンリサイクルとも呼ばれ、たとえば、再生可能エネルギー由来の水素と、分離・回収したCO2を化学反応させてメタンなどの化学原料を作れば、それをもとに化学製品を製造できるようになります。CO2を原料としてリサイクルすることで、大気中への放出を防ぐという技術です。
また、CCSに「有効利用」を加えたものは、CCUSと呼ばれます。分離・回収したCO2を貯留層に圧入し貯留するだけでなく、圧入という用途で有効活用しようという考え方です。資源エネルギー分野では、分離・回収したCO2を油田の原油生産層に圧入することで、原油を回収しやすくする「原油増進回収(CO2-EOR)」などの技術に用いられてきました。
CCS |
CO2を分離・回収し、地下の貯留層に安定的に圧入する |
CCU |
CO2を分離・回収し、化学品や燃料、鉱物の製造などに原料として利用する。カーボンリサイクルとも呼ばれる |
CCUS |
CO2を分離・回収し、地下の原油生産層に圧入しながら、原油増進回収技術などに利用する |
IEA(国際エネルギー機関)によれば、2050年時点で世界がカーボンニュートラルを達成するには、年間約38~76億トンのCO2をCCS/CCUSで圧入貯留する必要があると試算されており、世界各国でCCS/CCUSの事業化に向けたプロジェクトが活発化しています。2022年9月時点で開発中のCO2回収施設の容量は2.44億トンに拡大しています。直近の一年間で44%増えて、CCS施設の数は操業中が30、建設中が11、開発段階が153、操業停止中の2件を加えて合計196事業となっています。(注)
CCS/CCUSをめぐる世界の活発な動きを感じることができるのではないでしょうか。
(注)グローバルCCSインスティテュート調べ
世界で進むCCS/CCUSプロジェクト
IEAが試算した2050年に全世界で必要となるCO2の貯留量に対して、日本が占めるCO2排出量割合(3.3%)をかけると、日本では、2050年時点で、年間約1.2~2.4億トンのCCSが必要と推計されています。そのため日本でも2030年のCCS事業化(操業開始)に向け実証試験や適地調査が活発に進んでいます。
北海道の苫小牧では、CCS技術の実証を目的とした日本初の大規模実証試験が進められてきました。2012年度から2015年度にかけて実証設備が建設され、2016年度からはCO2の圧入を開始。2019年11月には、累計圧入量約30万トンを達成しました。現在はさまざまなモニタリング手法を導入し、貯留後の安全性の確認を進めています。
北海道・苫小牧市のCCS実証試験
CO2貯留に関する国の適地調査からは、2022年3月末時点で、日本国内には11拠点において、合計約160億トンのCO2の貯留が可能であると推定されています。今後はCCSの事業化に向けて、貯留適地と見込まれるエリアのさらなる調査が進められる計画です。
国内のCO2貯留ポテンシャルの精緻化に向けた適地調査
現在、CCS事業化に向けた適地調査に関するデータは、JOGMECに移管され、2022年5月10日から一部のデータが利用可能になっています。今後も利用可能なデータを随時拡大していく予定です。
事業化へ向けた取り組みが活発に進む国内のCCS事業ですが、技術面、また法整備の面でまだまだ多くの課題があります。
CCS事業化に向けては、分離・回収、輸送、貯留の各プロセスにおいて、技術の確立、コスト(CCS設備の建設コスト+操業コスト)の低減、貯留適地の開発などをクリアする必要があります。そのため、現在日本政府は事業者と連携し、分離・回収、輸送、貯留というCCSバリューチェーン全体のコスト低減に向けた取り組みを進めているほか、政府が積極的にCCSの適地調査を実施していく方針を打ち出しています。また、欧米などCCS先進国で行われている政府による支援の検討も進めていく計画です。
CCSの事業化にあたっては、適地開発や事業化に向けた環境整備などをクリアする必要があります。すなわち、「CO2圧入貯留権」の新たな設置や、事業者が負うべき法的責任の明確化、日本における貯留層の適正な管理などが不可欠です。事業者が適切にリスクを評価し、これを管理することができる環境を整えることは、企業や金融機関の投資判断における必須事項です。法整備においても、政府が積極的に環境整備を進めていく計画です。
今後、国内外でますます活発化していくことが予想されるCCS/CCUSプロジェクト。2022年にはJOGMEC法の改正が実施され、出資・債務保証等の対象に、CCS事業およびそのための地質探査に係る業務が追加されました。これは民間企業が、海外でCCS事業を実施するにあたってのリスクマネーを出資・債務保証を通して供給するというものです。加えて、JOGMECは長年にわたり、CCUSのひとつ、CO2-EORに関する技術開発を進めてきました。JOGMECはそこで得た知見や経験を活かし、2050年カーボンニュートラルの実現への貢献を果たしていきます。