海にはどんな資源がある? メタンハイドレートや海底熱水鉱床に注目!
「海の資源」と聞くと、みなさんはどんなものを思い浮かべますか?
一般的には馴染みが薄いかもしれませんが、海の底には陸上と同じように、銅や亜鉛、レアメタルなどの鉱物資源、そして石油や天然ガスなどのエネルギー資源が眠っています。未だに全貌が解明されていない海の底は、地球最後のフロンティアとして、多くの可能性に満ちています。
「資源」とは、「回収することが可能で、人類の役に立つもの」を指します。そのため海にある資源とは、正確には魚介類をはじめとする水産資源なども含まれますが、ここでは資源エネルギーに絞って紹介します。海底にある資源エネルギーは、大きく鉱物資源とエネルギー資源の2種類に分けられます。そこからさらに、鉱物資源は海底熱水鉱床やマンガン団塊などに、エネルギー資源は石油・天然ガスとメタンハイドレートといった形で分けられます。
海底面から湧き出す熱水に含まれる銅や亜鉛などの金属成分が、海水によって冷却されることで沈澱してできたもの。日本では、沖縄海域や伊豆・小笠原海域などに分布し、水深500m~3,000mの場所に存在が確認されています。主に銅や亜鉛、鉛、金、銀などを含有します。
海水に含まれるマンガンや鉄の粒子が海底の石などに積もり、球形や楕円状の塊になったものです。ハワイ南東方海域など、太平洋沖の水深4,000m~6,000mの場所で多く発見されています。主にニッケルやコバルト、銅、マンガンなどを含有します。
海水に含まれるマンガンや鉄など粒子が、海山に数ミリ~数10センチメートルの厚さに積もって形成されたもの。南鳥島やハワイ諸島周辺海域など、太平洋沖にある海山の水深1,000~2,500メートルの場所に多く分布します。主にニッケルやコバルト、白金、マンガンなどを含有します。
レアアースが含まれた泥質の堆積物で、水深4,000~6,000メートルの比較的平坦な海底に分布しています。太平洋の海底に広範囲にわたって存在しており、日本近海では南鳥島周辺の海域に分布します。
生物が起源となった有機物が厚く積み重なってできた石油や天然ガスが海底下の堆積岩の中に存在しています。
砂粒子のすき間に充填されているメタンハイドレート(出典:MH21-S)
天然ガスの主成分であるメタンと水が低温・高圧の状態で結晶化した氷状の物質です。水深500メートルより深い場所での海底面下数100メートル程度までの地層や、極地の永久凍土地帯の地層中に存在しています。日本では東部南海トラフ海域などに厚く広く存在することが確認されています。
海の資源を探す場合、陸上とは異なり地形や海底面の様子を直接見ることができません。そこで行うのが、音波を用いた地形調査や地震波を用いた物理探査です。海上で音波や地震波を発生させ、海底面や海底面下の地層からのはねかえりを測定することで、海底の地形や海底面下の地層の情報を取得します。
資源が分布する場所にはそれぞれ特徴があります。たとえば海底熱水鉱床なら水深500~3,000メートルの海底の熱水活動が盛んな場所、コバルトリッチクラストなら海山の頂上付近などです。物理探査によってそうした条件に合致するエリアを探したら、鉱物資源の場合は海底の岩石のサンプルの取得やボーリング調査を行います。
エネルギー資源についても同様で、物理探査により有望地域を絞り込み、ボーリング調査などによって詳細な調査を実施します。
得られた情報から資源量や品位、資源分布などを評価し、総合的に経済性を評価します。評価によって経済性に期待ができると判断されれば開発が可能となります。
海洋資源調査船「白嶺(はくれい)」
海洋鉱物資源の探査を担うJOGMECの海洋資源調査船「白嶺(はくれい)」。物理探査機器や海底を掘削する装置のほか、岩石サンプルを採取するROV(Remotely Operated Vehicle)と呼ばれる遠隔ロボットなども装備する
三次元物理探査船「たんさ」
海底面下の地質構造を調査することで石油・天然ガスのポテンシャルを評価するJOGMECの物理探査船「たんさ」
現在、世界中で海の資源について調査が進められているものの、海洋鉱物資源は商業生産が行われていない状況です。というのも、海の底から資源を回収するためには、まだまだ多くの課題が存在しているためです。
海底または海底面下に存在する鉱物資源やメタンハイドレートを開発・生産する手法は確立していません。たとえば鉱物資源の場合、海底面に存在する鉱物資源を砕き、ポンプで船上まで吸い上げる手法が有力だと考えられています。しかし、資源によって分布する場所や環境、水深が異なることから、調査から生産に至るまで、その資源に適した機器や手法の開発が必要です。現在、海底熱水鉱床に関しては鉱石を洋上に上げるためのパイロット試験に成功していますが、それでも実用化まではまだまだ多くの課題が残ります。資源量の調査と同時に、こうした生産手法の研究開発も進めなければなりません。
海底熱水鉱床鉱石を回収する装置の概念図(2017年パイロット試験時)
砂層型メタンハイドレートに関しては、海底面下の地層に井戸を掘り、井戸内の水を汲み上げることで地層の圧力を下げ、分解されたメタンを回収する方法などが検討されています。この方法は石油・天然ガスの生産設備を流用できますが、それでもメタンハイドレート用に改造したり、生産手法の開発が欠かせません。
資源開発はあくまでビジネスです。採算がとれなければ民間企業は参入しません。海の資源は資源量評価が難しい上に、特殊な装置や設備の開発、さまざまな役割の船が必要になることから、陸上の資源開発と比べてより大きなコストがかかります。
そうしたコストやリスクを踏まえてでも、民間企業が参入を検討するほど十分な資源量や品位が確認されたり、経済性のある生産技術が開発されることが、海の資源を開発するための前提条件となります。
深海の熱水噴出孔域に住む甲殻類の一種「ゴエモンコシオリエビ」
現在、海底にある資源の開発による自然環境への影響は未解明な部分が多いです。そのため、鉱物資源やメタンハイドレートの回収など、JOGMECが生産試験をする場合、長期的なモニタリングを行い、自然環境への影響評価を行っています。鉱物資源開発では、これらのモニタリングで得られたデータを活用することで、持続可能な資源開発のルール作りに貢献したいと考えています。
島国である日本は、世界で6位という広大な排他的経済水域を有していることから、海底に眠る資源の開発・生産には大きな期待が集まっています。
日本は石油や天然ガス、金属などの資源のほとんどを輸入に依存しているため、資源国の状況によって供給が左右される可能性があります。そのため、国内で資源を獲得できれば、資源の安定供給につながるでしょう。さらに、国産資源としての生産が進めば、日本が資源国として海外へ輸出する未来も訪れるかもしれません。
そうした未来に向け、現在、資源エネルギー庁の作成した「海洋エネルギー・鉱物資源開発計画」で定められた海洋資源開発の目標に沿って、調査や技術開発が進められています。日本は世界で初めて海底熱水鉱床の採鉱・揚鉱試験に成功するなど、世界をリードする存在でもあり、海洋資源に対する注目は、今後さらに高まっていくでしょう。