JOGMEC 独立行政法人 エネルギー・金属鉱物資源機構

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持続可能な坑廃水処理モデルを日本各地へ。
~JOGMECプロセス開発/パッシブトリートメント導入ガイダンス作成~

 「鉱害」という言葉を聞くと、高度経済成長期の汚点、あるいは遠い国の出来事とイメージされる方もいるかもしれません。しかし、日本には約5000カ所の休廃止鉱山(現在は休止または閉山している鉱山)が存在し、そのうちの約100カ所では、今なお有害元素を含有する坑廃水が出続けています。各地域の自治体や民間事業者がこの坑廃水を適切に処理することで、鉱害を未然に防ぎ、私たちの生活を守っているのです。
 JOGMECでは、自然の力で坑廃水を処理するパッシブトリートメント技術に着目して2008年頃から研究開発を推進してきました。その過程で「もみがら」と「米ぬか」を利用する独自のJOGMEC プロセスを考案し、2020年7月から約1年間にわたる実施試験を成功させています。さらに、2021年12月には経済産業省が坑廃水処理事業者向けのガイダンスを公開。さまざまな形でパッシブトリートメントの普及を後押ししています。

JOGMECプロセス実証試験の様子

 JOGMECプロセスとは、パッシブトリートメントと呼ばれる技術のひとつです。もみがらや米ぬかなどを反応槽に入れ、それらを栄養源として活性化した微生物の力で坑廃水中の有害元素を除去します。ここでは、JOGMECプロセスの特徴を紹介します。

鉛、亜鉛、銅、カドミウムに強い

 JOGMECプロセスは、鉛、亜鉛、銅、カドミウムの除去性に特に優れた処理方法です。実証試験では、それらの元素に加え鉄を含む100リットル/分の坑廃水を365日処理し続けることに成功しています。これらの金属は休廃止鉱山から排出される坑廃水に含まれていることが多く、日本各地の坑廃水処理現場に適応可能性のあるプロセスです。

薬剤も電気も使わず処理が可能

 日本の多くの坑廃水処理施設では、薬剤を連続的に添加して機械設備を活用して有害元素を除去する手法が採用されていますが、薬剤や電力、設備の保守点検などに莫大なコストが掛かっています。一方、JOGMECプロセスは、薬剤や電力を極力必要とせず、設備も非常にシンプルです。薬剤や電力のコストカットにつながるほか、設備のメンテナンスの工数なども減らすことができます。

環境負荷の低減にもつながる

 日本各地の鉱害防止事業者がJOGMECプロセスを含むパッシブトリートメントを導入することで、坑廃水処理における電力使用量を節減でき、CO2削減にも貢献します。薬剤を使わず自然の力で有害元素を除去し、環境負荷も小さいJOGMECプロセスは、まさに持続可能な坑廃水処理モデルといえます。

 JOGMECプロセスについてより詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
休廃止鉱山における自然回帰型坑廃水浄化システム(パッシブトリートメント)の導入ガイダンス

 2021年12月より経済産業省のホームページで、パッシブトリートメント導入ガイダンスが公開されています。ガイダンス作成を担当したJOGMEC金属環境事業部の濱井が、作成の経緯やポイント、活用方法などを紹介します。

パッシブトリートメント導入を後押しするために

 JOGMECがパッシブトリートメントの研究を開始して10年余り。研究の経過に伴いさまざまな場面で試験結果を発表する中で、鉱害防止事業者におけるパッシブトリートメントの認知は徐々に広がり、興味を示してくださる方も数多くいらっしゃいました。一方で、導入するために何をすれば良いのかわからないという声も多く聞かれました。特に地方自治体では担当者の部署異動も多いため、知識やノウハウを蓄積するのが難しいという事情もあると思います。
 そうした背景から、経済産業省からの委託事業として、2018年度よりパッシブトリートメント導入ガイダンス作成をスタート。2021年に完成し、経済産業省のホームページで公開されています。

誰が読んでもわかりやすいガイダンスを目指して

 日本全国で約100カ所の坑廃水処理施設が稼働していますが、各事業者の知識や経験値はさまざまです。だからこそガイダンスを作成する上で、どのような知識レベルの方が読んでも理解しやすい内容にすることにこだわりました。文章だけではなく、イラストやフローチャートを多用して視覚的にも理解しやすい紙面にするなどの工夫も、その一例です。
 ガイダンスの構成は、海外で公開されているパッシブトリートメントの解説書などを参考にしています。しかし、海外と日本では、パッシブトリートメントの導入に向けて事情が異なる部分も多々あります。例えば、海外では広大な土地を利用した処理が一般的である一方、急峻な地形が多い日本では同じような規模感の施設づくりは困難です。そうした違いも踏まえながら、日本ならではのパッシブトリートメントの導入方法を模索した結果をガイダンスにまとめています。

本編・概要版には基礎情報、別冊には先行事例を掲載

 ガイダンスは、概要版、本編、別冊の3種類で構成しています。概要版と本編はパッシブトリートメントに関する基礎的な情報をまとめているので、まずこちらを読んでいただければパッシブトリートメントの特徴や導入に向けた検討項目の大枠をご理解いただけると思います。
 また、別冊にもぜひ目を通していただきたいです。導入・試験事例集として、パッシブトリートメントが導入された現場あるいは実証試験などが実施された現場を12事例まとめています。水量や水質の情報に加え、どのように導入や試験が実施されているかを記載し、各現場で得られた課題なども整理しています。
 今現在、坑廃水処理を行っている自治体・民間事業者の方々が、それぞれご担当されている坑廃水の水量や水質に近い事例をロールモデルとしていただくことで、パッシブトリートメント導入に向けた具体的な道筋を描くことができると思います。

少しでも可能性を感じたら、ぜひお声がけいただきたい

 ガイダンスを読んでパッシブトリートメントに興味を持った方は、ぜひ私たちにご連絡ください。JOGMECには多様な鉱害防止支援制度があり、適用可能性の検討・評価や設計・工事に関する支援など、さまざまな形でサポートさせていただけるかと思います。
 現在皆さんが抱えている坑廃水処理における課題も、JOGMECプロセスを含むパッシブトリートメントなら解決できるかもしれません。少しでも可能性を感じたら、まずはお気軽に声をお掛けください。

パッシブトリートメント導入ガイダンスは以下よりご覧いただけます。
  • 新着情報・トピックス > パッシブトリートメント(経済産業ホームページ)
JOGMECの鉱害防止支援は以下よりご覧いただけます。
濱井 昂弥
金属環境事業部 調査技術課
濱井 昂弥

2008年JOGMEC入構。鉱害防止支援業務に長く従事し、金属資源技術研究所でパッシブトリートメントの技術開発に取り組む。2018 年より現職。「自然回帰型坑廃水浄化システム(パッシブトリートメント)の導入ガイダンス」の作成に携わり、現在も同技術の実用化に向け課題解決を進める。
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秋田県横手市の全景

 東北の冬を代表する雪まつり「かまくら」やご当地グルメ「横手やきそば」が有名な秋田県横手市。現在では鉱業の面影がほとんど見られないこの街でも、坑廃水処理が行われています。1877年に操業を開始し、1957年に休山した吉乃鉱山から流れ出る坑廃水の処理を横手市が実施。現在、薬剤を使用して有害元素を除去する処理を行う一方、JOGMECの制度を活用し、JOGMECプロセスの導入に向けた現地実証試験を実施しています。
 鉱害防止事業を担当されている横手市役所 生活環境課の田口さんにお話を伺いました。

市民の生活を守るために坑廃水処理は不可欠

 吉乃鉱山を操業していた企業が1976年に廃業し、その後、秋田県、増田町と坑廃水処理事業が引き継がれ、2005年の市町村合併から横手市が本事業を担っています。坑廃水処理を実施する以前には、カドミウム汚染米が検出されるという鉱害問題も発生しました。坑廃水は半永久的に流出するものなので、市民の安全・安心な生活を守るためにも事業の継続は不可欠です。
 その一方で、薬剤や電力の費用、設備管理のための人件費などが掛かり続けるため、財政負担は小さくありません。また、現在稼働している処理施設の老朽化も進んでおり、近い将来に改修や建て替えを検討しなくてはならず、その費用も悩みの種となっています。

JOGMECプロセスは環境調和型の処理方法

 JOGMECプロセスをはじめとするパッシブトリートメントは、自然の浄化作用を利用することでコスト削減につながることや、処理プロセスがシンプルなので複雑な設備や制御が不要であることに魅力を感じています。現在の処理において特に苦労している鉛の除去に強いところも魅力的です。
 JOGMECプロセスを導入できれば、事業費用や労力の削減につながり、ひいては市の財政を支える地域住民の方々の負担軽減にもつながるはずです。また、自然の力を利用した環境調和型の処理方法なので、環境保全という観点からも地域に貢献できると考えています。

日に日に高まっているJOGMECプロセスへの期待感

 本当にもみがらと米ぬかで金属を除去できるの? それが、JOGMEC主催の自治体向け講習会でパッシブトリートメントという手法を知った当初の率直な思いでした。しかし、試験を重ねる中で良い結果を目にする度、日に日に期待感が高まっています。
 最近ではかつてこの地で鉱山が操業されていたことも、それによって鉱害問題が発生したことも知らない世代が増えてきています。しかし、地域の方々から鉱害の記憶が失われつつある今も坑廃水は流れ続けており、それを安定的に処理し続けることが私たちの使命です。地域の方々のためにも、低コストで環境にやさしいJOGMECプロセス導入に期待しています。

現地でのJOGMECプロセス実証試験の様子

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