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アンモニアの魅力!多彩な用途でCO2排出量の削減に貢献

水素にも負けない魅力を持つアンモニア
「アンモニア」と聞くと、ツンとした刺激臭を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。その強烈な臭気からは想像しづらいですが、野菜を育てるのに必要な肥料や、洋服、化粧品、お菓子に使われるベーキングパウダーなど、身近なところで活用されているほか、最近はクリーンなエネルギー資源としての注目が集まっています。

 そこで今回は、アンモニアの特徴から、エネルギー資源として期待されている理由、各国の動向まで、詳しく解説します。

アンモニアとは

タンクで運搬されるアンモニア(海外)

 アンモニアは強い刺激臭を持つ、常温常圧で無色透明の気体です。分子式は「NH3」で、水素(H)と窒素(N)で構成されており、重量比で約18%の水素を含んでいます。

用途

 古くから農作物の肥料として使われ、現在でも、世界で製造される約8割のアンモニアが肥料の原料として使われています。その他、メラミン樹脂や合成繊維といった化学製品の原料、衣類のシミ抜きなど、幅広い用途で活用され、世界で年間約2億トンが生産されています。
 
 最近は、燃やしても二酸化炭素を排出しないという特徴を活かし、化石燃料に代わるクリーンな燃料としても期待が高まっています。

製造方法

 アンモニアのほとんどは、水素と窒素を反応させる「ハーバー・ボッシュ法」で製造されています。原料となる窒素は空気中から取り出しますが、水素は天然ガスなどの化石燃料から製造するほか、太陽光など、再生可能エネルギー由来の電力で水を電気分解する方法でも製造しています。

アンモニアが注目される理由

アンモニア・尿素プラント(ナイジェリア)
出典:東洋エンジニアリング

 アンモニアがエネルギー資源として注目されているのは、炭素(C)を含まず、燃やしても二酸化炭素を排出しないことが主な理由です。しかしそれだけなら、アンモニアの原料のひとつである水素も同じ特徴を持っています。わざわざ水素と窒素を合成するアンモニアを使うメリットはどこにあるのでしょうか?

輸送方法、サプライチェーンが確立している

 すでに世界中に流通し、さまざまな用途で使われているアンモニアは、経済的に輸送可能で、信頼性の高いサプライチェーンが確立した化学品です。今後、エネルギー資源としてアンモニアの流通量を拡大させる場合、基本的な輸送システムやサプライチェーンはこれまでのものを活用できるため、安全性を確保しながら初期投資をおさえてスピーディに実現できると考えられています。
 
 一方、地産地消に近い形で使われてきた水素は、経済的に輸送する手段も、輸送を伴うサプライチェーンも開発中です。水素を世界中で利用する環境を整えるには、アンモニアよりもさらに長い時間と大きなコストが必要です。
 
 水素はカーボンニュートラルの実現に欠かせない重要な資源ですが、即効性のある選択肢として、まずはアンモニアの利用拡大を図ることで、カーボンニュートラルに向けて確実に歩を進めることが可能です。

水素の輸送媒体として利用できる

 水素を含むアンモニアは、水素の「輸送媒体=キャリア」としても利用可能です。水素のままでは輸送コストがかかりすぎる場所でも、一度アンモニアに変換すれば輸送コストをおさえることができます。輸送後、消費地で水素に戻せば、アンモニアの流通網を活用しながら水素の利用を拡大できるため、水素のサプライチェーン構築にも貢献するでしょう。特に欧州では水素キャリアとしてのアンモニアの価値に注目が集まっています。

水素キャリアとしてアンモニアを活用するイメージ

水素キャリアとしてアンモニアを活用するイメージ(キャプション表示なし)

船舶燃料として活用できる

 重油を燃料とする船舶は、航行に伴って二酸化炭素を排出します。重油の代わりに、燃やしても二酸化炭素を排出しないアンモニアを船舶燃料として利用すれば、二酸化炭素の低減に寄与します。

 一見、水素も同じように利用できそうですが、実は船舶燃料として水素は適していません。アンモニアも水素も、船舶燃料として利用するには液体にする(液化)ことでエネルギー密度を高める必要がありますが、液化に必要な条件は、水素は-253度、アンモニアは-33度以下と異なります。水素の液化にはアンモニアよりもはるかに低い温度が必要で、多くのエネルギーを消費するため、現在の技術では効率が非常に悪くなります。さらに、水素は極めて燃えやすい特徴を持つことから、船舶で利用するにはその危険性の大きさも、解決すべき課題となります。

アンモニアの普及に向けた各国の動向

世界(イメージ)(キャプション表示なし)
 すでに世の中に流通するアンモニアですが、その需要量と供給量にはエネルギー資源としての利用は見込まれていません。今後、需要が高まれば、供給が不足してアンモニアおよびアンモニアを原料とする肥料の価格が高騰し、農作物の高騰を引き起こす恐れがあります。そのため、今後はエネルギーへの活用を前提とした大規模なサプライチェーンを築いていく必要があり、すでに日本を含めた各国で技術開発や実証実験をはじめとするさまざまな支援が進められています。

日本の動向

 2050年のカーボンニュートラル実現に向け、資源エネルギー庁は「2030年までに国内の電源構成の約1%を水素・アンモニアとする」こと、「水素・アンモニアの国内需要として年間300万トン、2050年には年間3,000万トンまで増やす」という目標を掲げ、アンモニアの利用拡大を推進しています。

 さらに、大きな需要が見込まれる石炭火力発電所の燃料をアンモニアに転換することに関しては、2030年までに20%転換の導入・普及を進め、2050年までに100%転換(専焼)に切り替えるというロードマップをつくっています。こうした目標を達成するために、現在は次のような取り組みが行われています。

アンモニア利用拡大に向けた最新の取り組み

概要 内容
火力発電の利用に向けた大規模実証実験 碧南火力発電所(愛知県)で、2024年3月からアンモニア20%転換の大規模実証実験を実施。技術の確証が得られれば、本格稼働に向けて動き出す見込み。
政府によるサプライチェーン構築に向けた支援 水素/アンモニアの導入・普及に向けた生産量拡大事業を政府が支援することで事業化を推進。2024年中に、価格差に着目した支援やインフラ整備のための資金援助についても動き出す見込み。
アンモニア燃料で動く船の開発 世界中で開発が進む中、本邦企業が協働し、アンモニア燃料エンジンを搭載した船舶の供給を目指している。

カーボンニュートラル実現に向けて前進するために重要な存在

 エネルギー資源としての水素とアンモニアは、燃やしても二酸化炭素を排出しないという意味では同様でも、輸送やサプライチェーンといった利用拡大に向けた課題は大きく異なります。

 水素はカーボンニュートラルの実現に大きな役割を果たすことが期待されていますが、大規模な利用拡大にはより長い時間と大きなコストが必要となります。サプライチェーンが確立し、既存インフラが活用できるアンモニアは、実装までの期間は短く、早期のCO2排出量削減が期待されます。日本がカーボンニュートラルの実現に向けて必要な施策の一つとなるでしょう。

 日本では、2024年は碧南火力発電所(愛知県碧南市)での大規模実証実験が実施されるなど、アンモニア普及に向けて大きく動き出す年です。ぜひ、アンモニアに関するニュースをチェックしてみてください。

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