エネルギートランジションってどういう意味? その意味や課題について解説!
2050年のカーボンニュートラル達成という目標に向け、再生可能エネルギーや水素・アンモニアといったクリーンなエネルギーの導入が世界中で進められています。
こうした動きは「エネルギートランジション」と呼ばれ、ニュースでも使われるようになりました。しかし、その意味を正しく理解している人は意外と多くありません。そこで今回は、エネルギートランジションという言葉の意味や課題について解説します。
「エネルギートランジション」とは、既存のエネルギーシステムから異なるエネルギーシステムへの移行を指します。
エネルギーシステムの中心が化石燃料である現在は、「化石燃料を主としたエネルギーシステムから、持続可能で地球環境に配慮した新たなエネルギーシステムへの移行」という意味で多く使われます。
エネルギートランジションはこれまでも何度も起こっています。かつて蒸気機関が発明されたことで、木炭中心のエネルギー源は石炭へ移行しました。その後、自動車や航空機の発達を機に石炭から石油へと主力のエネルギーが移り、現在のエネルギーシステムが確立されました。
これまでのエネルギートランジション
石油や天然ガスがほとんどとれない日本で、電気を不自由なく使えて、自動車や飛行機でどこにでも移動できるのは、世界規模で石油・天然ガスが流通する仕組みが確立しているからです。現在進行中のエネルギートランジションでは、この利便性をできる限り損なわずにカーボンニュートラルを達成する、全く新しい仕組みの確立を目指しています。
石油・天然ガスは火力発電の燃料や、自動車・船舶・飛行機の燃料、暖房器具やガスコンロの熱源など、あらゆる用途に利用できるとても優れた資源です。それだけの汎用性・利便性を持つエネルギー資源は、化石燃料以外に存在しません。次のエネルギーシステムでは、さまざまなエネルギーを得意分野ごとに組み合わせ、最適なエネルギー構成の構築が必要とされています。
エネルギー |
用途 |
概要 |
再生可能エネルギー |
・発電 |
太陽光・風力・地熱など自然のエネルギー。主に発電に利用され、枯渇することなく繰り返し利用できるのがメリット。 |
水素・アンモニア |
・火力発電の燃料
・熱利用(工業炉など)
・船舶用燃料
・燃料電池 |
燃やしても二酸化炭素を排出しないことから、さまざまな用途への利用が期待される。特に電気が苦手とする熱源としての利用に期待が高まっている。 |
SAF
(Sustainable Aviation Fuel) |
・航空燃料 |
植物などのバイオマス由来原料や、飲食店で排出される廃食油などからつくられる航空燃料。既存の設備や航空機をそのまま使えるのがメリット。 |
化石燃料をゼロにできない用途はCCSなどを組み合わせる
北海道・苫小牧市のCCS実証試験
安定的に発電できる火力発電は、ベースロード電源として活用し続ける可能性があります。プラスチックや化学製品も石油が原料であるため、化石燃料の利用を完全にゼロにすることは難しいと考えられています。化石燃料の利用で排出される二酸化炭素は、分離・回収し、地下に貯留するCCS技術などを活用し、大気中に排出しない仕組みづくりが進められています。
現在のエネルギートランジションで大切なのは、国や地域が持つ地理的環境や産業構造などにより進むべき道が異なることです。たとえば、大陸全体に整備されたパイプラインで、天然ガスを隅々にまで供給している欧州では、パイプラインを応用し、水素を気体のまま安く輸送できるかもしれません。
その点、海に囲まれパイプラインも整備されていない日本の場合、海外で製造した水素を日本まで運んだり、国内を輸送するのに液化する必要が出てきます。欧州とはコストも技術的ハードルも異なるため、水素の用途や国内で必要なエネルギー全体での構成比率を日本に適したものにしなければなりません。
2050年までにカーボンニュートラルを達成するというゴールは共通でも、日本は日本に最適なロードマップを考えていく必要があります。
エネルギートランジションを進めるには、まだまだ多くの課題があります。中でも大きな課題とされているのは以下の3つです。
アメリカや欧州、日本といった先進国が集中する「グローバルノース」と、新興国や途上国が集中する「グローバルサウス」とで、エネルギートランジションに関して意見が対立しています。
グローバルノースはこれまで、化石燃料を利用して経済発展を遂げた一方、グローバルサウスは経済成長の真っ只中です。そのため化石燃料が使えなくなることによる不公平感が生まれています。
また、グローバルサウスは、再生可能エネルギー資源には恵まれているものの、開発のための資金が不足しており、グローバルノースからの投資資金が集まるような国際金融の仕組みを構築することが重要となります。
エネルギートランジションは世界全体で進めなければ効果は低く、時間は長くかかります。その間も地球温暖化は進行し、気候変動による被害が拡大します。立場の違うグローバルノースとグローバルサウスがいかに協力できるかは、エネルギートランジション達成の大きな課題となっています。
現在、技術的ハードルが低く、経済性が見通せる再生可能エネルギーを利用した発電所の設置や、EVの製造・販売に投資が集中しています。しかし、発電所を増やしても、需要地と供給地をつなぐ送電線を整備しなければ、発電した電力を活かせません。EVを製造しても、現在のガソリンスタンドと同様の利便性を確保するには充電設備が足りません。
化石燃料が世界の隅々にまで安く供給され、手軽に利用できるのと同じような利便性がなければ、新たなエネルギーシステムの構築はできません。そのためには、簡単に取り組める事業を進めるだけでなく、長期的な視点で時間やコストがかかる部分にも取り組まなければなりません。
気候変動を生活の中で実感し、地球温暖化に対する危機感は抱いていても、実際に自分の生活を変えることには抵抗を感じるものです。
フランスでは2018年、ガソリン価格の上昇につながる、CO2排出量に対して課税する燃料税の引き上げを発端に、「黄色いベスト運動」と呼ばれる大規模な抗議活動が発生しました。2023年末には、EUで農業に対する温室効果ガスの排出量規制に対し、激しい抗議活動が起こり施行を断念しています。
エネルギートランジションが進めば、企業だけでなく、個人の生活にも影響が及ぶ可能性があります。それにより制約や負担が生じたとき、一人ひとりが意識や行動を変えられるかは、この先大きな課題となるでしょう。
カーボンニュートラルの達成に向け、再生可能エネルギーの利用やEVの普及が進んでいます。これらは温室効果ガス排出削減に対し、即効性のある取り組みとして非常に大切です。一方で、長期的な目線でエネルギートランジションの道筋を考え、一刻も早くその道筋に沿った対応を進めていくことも求められます。
今後はそうした動きが加速し、一人ひとりの行動も必要になるでしょう。これからの生活に直結するエネルギートランジションに関するニュース、ぜひチェックしてみてください。