石油業界・天然ガス業界の将来って今後どうなる? 脱炭素社会における展望を解説!
再生可能エネルギーや電気自動車(EV)をはじめ、CO2排出削減に向けた取り組みが活発化しています。そうしたニュースを耳にすると、「石油や天然ガスはなくなるの?」「石油業界・天然ガス業界はこれからどうなるの?」と疑問に思う人もいるのではないでしょうか。
そこで今回は、昨今の動向を踏まえて、今後の石油業界・天然ガス業界の展望について詳しく解説します。
世界のエネルギー問題の解決をはかるために活動する国際エネルギー機関(IEA)が作成した世界各国の政策をもとに作成したシナリオ(STEPS)では、今後の化石燃料の需要は2030年までにピークを迎え、再生可能エネルギーとEVの普及によって、その後減少していくと見通しています。
ただし、石油、天然ガス、石炭それぞれの需要見通しによると、2030年にピークを迎えた後、石油と天然ガスはピーク時から大きく減少せずに2050年まで推移していくと分析されています。
化石燃料の需要見通し
出典:国際エネルギー機関(IEA)「2023年版世界エネルギー見通し」をもとに、2022年の需要を100として作成
石油と天然ガスの需要が大きく減少しない理由は、以下の4つが挙げられます。
再生可能エネルギーや水素・アンモニアといったクリーンエネルギーの導入が進んでいることから、近いうちに完全にクリーンエネルギーを利用した社会になると思っている人もいるかもしれません。
しかし、現在の社会を支えるエネルギーの80%ほどは石油・石炭・天然ガスといった化石燃料により供給され、再生可能エネルギーや、水素・アンモニアなどの新エネルギーは、今までほとんど使われたことがないか、小規模でしか使われてこなかったものです。さらに、水素・アンモニアなどの新エネルギーは、国際的な取引市場は確立されておらず、生産地から消費地に経済的かつ安全に輸送する手段も検討しなければなりません。
そのため、化石燃料から完全に移行するには、世界中で利用するのに十分な生産量の確保、エンドユーザーに届けるための仕組みやインフラの整備が必要です。それには長い年月と大きなコストがかかるため、移行完了まで化石燃料と共存していく必要があります。
たとえば再生可能エネルギーを広く普及させるには、発電所を建てるだけでなく、発電した電力を需要の高い土地まで輸送するための送電網を整備する必要がある。
石油はガソリンや灯油などの燃料だけでなく、プラスチックやポリエステルなどの合成繊維、自動車のタイヤなどに用いられる合成ゴムといった化学製品の原材料としても使われています。
主な石油の用途
今後は再生可能エネルギーや水素・アンモニアなど、CO2を排出しないクリーンエネルギーの導入が進み、燃料としての需要は減る一方、新興国や開発途上国の人口増加や経済発展に伴って、石油化学製品の原料としての需要は伸びていくと考えられています。実際に、用途別の石油消費の推移を見ても、石油化学原料としての消費は増加しています。
石油の利用量を減らすには、燃料だけでなく、化学製品の原材料もCO2を排出しないものに移行していく必要があり、そのための技術開発も進めていかなくてはなりません。
2022年に始まったロシアによるウクライナ侵攻により、ロシア産天然ガスに依存していた欧州だけでなく、世界中の天然ガス価格が高騰し、世界経済は大きなインパクトを受けました。
これをきっかけに、世界中がエネルギー安全保障の重要性を再認識しました。クリーンエネルギーへの転換を積極的に進めてきた国やエネルギー開発企業は、経済発展や日々の生活に欠かせないエネルギーの安定的な供給に対しても改めて力を入れていくことになりました。それに伴って、安価で安定的に供給できる石油や天然ガスの重要性が高まっています。
新興国や開発途上国は、経済発展を実現するために安価で安定して供給できる化石燃料の必要性を訴えており、今後もそうした国々の需要は伸びていくと考えられます。従来の薪に比べてクリーンな調理用燃料としての利用普及や、頻発する停電を解消するための安定的な発電燃料へのアクセスなどが、多くの新興国・開発途上国における喫緊の課題です。
現在でも開発途上国の一部では燃料として薪が使用されており、薪を集めるための労働力や煙による健康被害が問題となっている。
一方で、すでに経済力のある先進国は、再生可能エネルギーや水素・アンモニアなど新エネルギーの導入、技術開発を進め、CO2排出削減に貢献していかなければなりません。
各国のエネルギーや経済的な事情に合わせて段階的に使う燃料を変えていき、世界全体で少しずつカーボンニュートラル達成に向けて歩みを進める必要があります。
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開発途上国 |
新興国 |
先進国 |
状況 |
電力が足りていなかったり、健康被害や重労働が必要な薪を主な燃料としている地域では、人々が満足にエネルギーを活用できる状況が必要。 |
石炭を主要な燃料としている国が多いが、人口増加や経済成長によりエネルギー需要が高まっている。 |
化石燃料が主要だが、再生可能エネルギーが占める割合も増えつつある。 |
必要な取り組み |
安価で安定的に手に入れやすい化石燃料を、誰でも利用できる環境を整える。 |
石炭に比べてCO2排出量が少ない天然ガスに転換する。 |
再生可能エネルギーや、新エネルギーの技術開発や導入を進め、石油・天然ガスの割合を減らしていく。 |
エネルギーの安定供給を確保し、新興国・開発途上国・先進国の経済発展も念頭に置きながら、カーボンニュートラルを達成する。そんな困難な道を世界が進む中で、石油業界・天然ガス業界はこれまでのような資源・エネルギーの安定供給だけでなく、新たな役割を担っていく必要があります。
クリーンエネルギーへの移行を少しずつ、しかし確実に進めるには、ガソリンや軽油などの燃料や、工場で使われている産業用燃料に水素・アンモニアといった新エネルギーを導入していくことが必要です。
しかし、新エネルギーに関する技術開発にはコストがかかるため、経済力のある先進国が積極的に進めていかなくてはなりません。日本の石油業界・天然ガス業界も、これまでに蓄積した知見を活用し、重要な役割を担っています。
日本は世界でいち早くLNGを導入したため、LNGの流通やビジネスに関するノウハウを長年蓄積しています。今後はそのノウハウを活かし、現在石炭火力発電を多く活用しているアジア各国が発電用燃料に天然ガスを導入する支援をすることで、エネルギー需要の高い新興国・開発途上国のCO2排出量削減に貢献できるでしょう。国内のエネルギー開発企業や都市ガスの事業者の一部は、こうした支援をすでに始めています。
石油・天然ガスはカーボンニュートラル達成に不可欠な存在
現在から2050年まで、石油・天然ガスの需要は大きく落ちることはないとされています。そうした中でカーボンニュートラルを達成するには、石油・天然ガスの安定的な供給はもちろん、石油業界・天然ガス業界がクリーンエネルギーに関する技術開発に参画するほか、様々な国や地域の状況に応じた段階的な取り組みを推進していくことが重要です。世界のエネルギー供給において、カーボンニュートラル達成の鍵を握る石油業界・天然ガス業界の今後に、ぜひ注目してみてください。