石炭の用途って?脱炭素社会における役割についても解説!
産業革命以来、世界中で利用されてきた「石炭」。日本でも長く活用されている資源ですが、具体的にどんな用途で使われているかご存知でしょうか。
今回は、石炭の用途や資源としての特徴を紹介するほか、カーボンニュートラルの達成に向けた、日本における石炭の役割の変化についても解説します。
石炭とは、数千万年から数億年前に地中に堆積した植物を起源とする資源です。用途によって一般炭と原料炭に大別され、前者は主に火力発電の燃料として、後者は製鉄工程で使用されるコークスの原料として、それぞれ使われています。
分類 |
主な用途 |
日本における年間輸入量 |
一般炭 |
火力発電所、セメント工場のキルン、工場の自家発電用ボイラーにおける燃料として使用される |
約1億1,300万トン |
原料炭 |
製鉄所の高炉において酸化した鉄鉱石から酸素を取り除く還元材(コークス)の原料として使用される |
約6,300万トン |
資源としての石炭の特徴は、以下の2点が挙げられます。
石炭は世界の幅広い地域で産出されています。そのため、たとえば埋蔵量が中東に偏っている石油と比べ、特定の国や地域の情勢により供給途絶が起きる可能性が低く、エネルギー安全保障上のメリットがあります。また化石燃料の中では熱量当たりの価格が比較的安価であることから、化石燃料の中で安定して調達しやすい資源です。
出典:資源エネルギー庁「令和5年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2024)」をもとに作成(データは2020年末)
石油や天然ガスと比べ、燃焼した際に発生するCO2の排出量が多いというデメリットがあります。石炭を燃やしたときのCO2排出量に対して、石油の排出量は8割程度、天然ガスは6割程度となっています。
出典:「火力発電所待機影響評価技術実証調査報告書」(1990年3月)をもとに作成
2015年の第21回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で合意された『パリ協定』のもと、世界各国でCO2など温室効果ガス排出削減に向けた様々な取り組みが進められています。その取り組みの中でCO2排出量の多い石炭を燃料とする火力発電所に対し、排出削減対策が講じられていないものを減らしていこうという動きがあります。
しかし、エネルギー構成や産業構造、各種エネルギー資源へのアクセスの容易性など国ごとにおかれた状況は様々であり、そこで利用されている石炭の意味や重要性も異なってきます。石油や天然ガスと比べ、埋蔵量が豊富で可採年数が長く、安価でエネルギー安全保障上の利点も多い石炭が、その国の経済や社会にとって非常に重要な役割を担っていることもあるからです。
そのため、CO2排出削減目標のため、排出削減対策を講じていない石炭火力発電所を減らしていくとしても、どれくらいのペースで、どのような方法で減らしていくかは、その国や地域のおかれている状況に応じて考えていかなければなりません。
日本は国内にエネルギー資源が乏しく、1次エネルギー供給はそのほとんどについて石炭をはじめとした化石燃料の輸入に頼っています。一方で2020年に、日本は2050年までにカーボンニュートラルを目指すことを宣言、以降その実現に向けた取り組みが進められています。
2022年現在の日本の電源構成においてその約30%を石炭火力発電が占めていますが、2021年に発表された第6次エネルギー基本計画では2030年までにその割合を約19%まで縮小するという目標が示されています。
出典:資源エネルギー庁「総合エネルギー統計(時系列表)」(2024年4月12日公表)、「エネルギー基本計画の概要」(2021年)をもとに作成
国内の電力需要は季節や時間帯によって変動します。これに対し、太陽光や風力などの再生可能エネルギーを利用した発電も、天候等の要因により一定出力で電力を供給することが難しいという特徴があります。そのため、将来的に再生可能エネルギーを主力とする場合には、電力需給のバランスを常に取り続けるために、その発電量を補うための調整用の電源を別に用意する必要があります。そしてその調整電源の一つとして、石炭火力発電を活用していく方針が示されています。
日本では非効率なものや老朽化したものを中心に石炭火力発電を縮小していますが、高効率なものを中心に今後も調整電源として利用していくにあたって、以下の2点が課題として挙げられます。
カーボンニュートラル達成に向けてCO2の排出量削減が求められる中で、石炭火力発電を調整電源として使い続けるには、石炭を燃やしたときのCO2排出をいかに削減するかが重要な課題となります。
現在、日本では課題解決に向けて主に以下3つの取組が行われています。
石炭燃焼時に発生するCO2排出量の削減への取り組み
手法 |
概要 |
現状 |
IGCC
(Integrated coal Gasification Combined Cycle) |
- 石炭を燃料ガスに変えて利用することで、より高効率に発電し、CO2排出量を削減する技術
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- IGCCはすでに商業化されている
- IGCCをさらに低炭素な発電にしたIGFC(Integrated Coal Gasification Fuel Cell Combined Cycle)について、広島県で大規模実証試験が行われている
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混焼 |
- バイオマス(主に木質チップ)やアンモニアなどを石炭に混ぜて燃やすことで、石炭の使用量を減らす技術
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- バイオマスの混焼はすでに商業化されている
- アンモニアの混焼は大型商用機での実証実験が開始されている
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CCS
(Carbon dioxide Capture and Storage) |
- 発生したCO2を分離・回収し地中深くに圧入・貯留することでCO2排出量を削減する技術
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- 北海道苫小牧市ではCCSの大規模実証実験が行われCO2の圧入が終了、現在モニタリング中
- 石炭火力発電所で発生した排ガスを対象に、上記とは異なるCO2回収方法の実証試験も行われている
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石炭は世界中で産出する資源ですが、日本で使用する石炭の多くは高品質のものを求められる傾向にあるため、オーストラリアからの輸入量が過半数を占めています。オーストラリアは石油の主な供給源である中東に比べて情勢が不安定になるリスクは低いものの、供給源が偏るといざという時の替えが効かず、価格が高騰しやすくなります。安定的な供給を保つには、供給源の多角化が必要です。
出典:資源エネルギー庁「令和5年度エネルギーに関する年次報告 (エネルギー白書2024)」(データは2022年度)をもとに作成
石炭のおかれた事情は国によって異なることを理解しよう
ニュースでは、欧米など他国が石炭火力の段階的な廃止に向けて積極的に取り組んでいる事例が紹介されることがあり、そうした事例を見ると、「日本は遅れているのではないか」と不安になる人もいるかもしれません。
しかし、カーボンニュートラル達成という大きな目標は同じでも、そこに向かう過程は自国の事情に鑑みながら各々で模索していかなければなりません。日本においても2050年カーボンニュートラル実現に向け、エネルギー資源に乏しいことや国内の電力需要・産業構造に合わせた方針のもと、排出削減に向け様々な取り組みがなされています。そのような国や地域によって取り組み方が違うことを前提に、ニュースや情報をチェックしてみてください。