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カーボンクレジットとは? 仕組みや今後の展望について解説!

TOP画像 vol.26カーボンクレジットとは? 仕組みや今後の展望について解説!
 カーボンニュートラル達成の後押しとなることが期待され、近年注目が集まっている「カーボンクレジット」。日本国内でも、カーボンクレジットを活用した企業の取り組みが活発化しています。

 そこで今回は、カーボンクレジットの仕組みや種類といった基礎知識に加え、最新動向を踏まえた今後の展望について、わかりやすく解説します。

カーボンクレジットとは

 カーボンクレジットとは、個人や企業が、CO2排出削減・除去の取り組みを行った結果を認証したものです。カーボンクレジットはCO2を1トン削減・除去するごとに1クレジットが発行されます。企業や組織間で、相対取引や入札販売などの形で取引きされてきましたが、新たに東京証券取引所が開設した「カーボン・クレジット市場」でも取引きできるようになりました。

カーボンクレジットの目的

 CO2排出削減・除去は経済活動に直接結びつきにくいため、企業や団体は積極的な取り組みを行いづらいという課題があります。それに対し、カーボンクレジットは市場等で売買することで、CO2の排出削減・除去する取り組みに経済的価値をもたらすことができるため、カーボンニュートラルへの取り組みを加速させる役割が期待されています。

カーボンオフセットとの違い

 カーボンクレジットと似ている言葉で、「カーボンオフセット」があります。「オフセット」は「相殺する」という意味ですが、例えばある企業が工場等で排出したCO2に対し、植林など別のCO2削減・除去活動を実施したり、第三者がCO2を削減・除去する活動を行い発行したカーボンクレジットを購入したりすることで、工場からの排出量を削減したと見なす(相殺する)行為です。

カーボンオフセットのイメージ

カーボンオフセットのイメージ図
 
 つまり、カーボンクレジットはCO2排出削減・除去に取り組んだ結果を数値化して認証したもの、カーボンオフセットは排出したCO2を他の取り組みによって相殺する考え方です。カーボンクレジットは、カーボンオフセットの手段の一つとして位置づけられています。

カーボンクレジットの種類

 カーボンクレジットには多くの種類がありますが、主にパリ協定などの「国際協定に基づく枠組み」、「国や地域の制度」、「民間の事業者による制度」の大きく3つに分類されます。それぞれ認証機関と利用者が異なります。

 クレジットとして認められる削減方法の種類・数や基準は、種類ごとに異なります。特に民間の事業者による制度は幅広く、クレジットを取得しやすいものもあれば、発行に厳しい基準を設定しているものもあります。

 一般的に信頼性や透明性が高い認証機関によって認証されたクレジットや、SDGs(持続可能な開発計画)にも貢献する付加価値のあるクレジットほど高値で取引きされます。例えば、女性や支援が必要な方々の雇用を創出するプロジェクトや、生物多様性の保護や水質改善に繋がるプロジェクトなど、CO2排出削減・除去以外にもポジティブな影響が期待されるクレジットは購入企業の評判にもプラスの効果を与えるため、需要が高まり高値がつく傾向があります。

カーボンクレジットの種類

1.国際協定に基づく枠組み
発行者 国連などの国際機関や、二国間制度の場合は両国政府
利用者 各国政府、企業
概要 パリ協定など国際協定に基づくもので、先進国が途上国のCO2排出削減・除去に投資することでクレジットが発行されるなど、国際的にCO2削減の取り組みを促進する枠組み
代表的なカーボンクレジット
  • CDM(Clean Development Mechanism、クリーン開発メカニズム)
    (注)京都議定書下の制度で新規申請は停止中、パリ協定の国連管理型メカニズムに移管される
  • JCM(Joint Crediting Mechanism、二国間クレジット制度)
2.国や地域の制度
発行者 各国政府や地方公共団体
利用者 国内や地方自治体に属する企業
概要 CO2削減・除去量を国や地方自治体が認証する制度
代表的なカーボンクレジット
  • J-クレジット(日本政府や地方公共団体が主導)
  • 排出削減基金(ERF)(オーストラリア政府が主導)
3.民間事業者による制度(ボランタリークレジット)
発行者 民間企業や団体
利用者 企業、個人
概要 民間企業や団体による制度で、企業等が自主的に利用。多様な種類があり、流通量も多い
代表的なカーボンクレジット
  • VCS(Verified Carbon Standard)
  • Gold Standard
  • ACR(American Carbon Registry)
  • GCC(Global Carbon Council)

カーボンクレジットの取引制度

 さまざまな種類があるカーボンクレジットですが、それぞれ「ベースライン&クレジット」と「キャップ&トレード」の2つの制度のいずれかに従って認証・取引きされています。

ベースライン&クレジット

 ベースライン&クレジットは、現在のCO2排出量を基準値(ベースライン)として設定し、特定のクレジットスキームの下で、排出削減もしくは除去のプロジェクトを実施することにより、削減した量に基づきクレジットを生成、市場で取引きできる制度です。自主的な取り組みを評価する制度であり、基準値を下回らなかった場合も罰則などはありません。

ベースライン&クレジットのイメージ

ベースライン&クレジットのイメージ図

 例えば、CO2を年間10万トン排出している企業が、消費電力の削減や植林等のプロジェクトを実施することによってCO2排出量を4万トン削減した場合、4万クレジットが発行されることになります。

 現状、日本ではCO2の排出規制がないためベースライン&クレジットが主流で、日本政府や日本の地方公共団体が主導するJCMやJ-クレジットもベースライン&クレジットです。

キャップ&トレード

 キャップ&トレードは、国や地域が企業や施設に対してCO2排出量の上限(キャップ)を設定し、その上限を下回った分をクレジットとして認証・取引きする制度です。こうした仕組みは一般的に排出量取引制度といわれ、取引きされるクレジットは排出枠とも呼ばれます。排出量の上限を超えてしまった場合は、罰金などのペナルティが科されます。

キャップ&トレードのイメージ

キャップ&トレードのイメージ図

 例えば、政府が9万トンの上限を設定した場合、もともと10万トン排出していた企業が4万トン削減すると、上限を下回った3万トン分(=3万クレジット)が取引き可能になります。
 
 EU諸国やイギリス、オーストラリアなどは政府が排出規制を設けているため、CO2の排出削減・除去が難しい産業の企業は、クレジット(排出枠)の購入が規制をクリアする手段の一つになります。そのため、キャップ&トレードでの取引きが積極的に行われています。
 

カーボンクレジットに関する注目の動向

 カーボンクレジットに関する議論は現在進行形で行われており、制度や活用方法は進化し続けています。特に注目すべき動向としては、以下が挙げられます。

COP29でのカーボンクレジット市場に関する国際的な運用ルールの決定

 2024年11月に開催されたCOP29(国連気候変動枠組条約第29回締約国会議)において、カーボンクレジットを国同士や国境を超えた企業間で取引きする際の運用ルールが決定されました。

 これまでも、国際協定に基づいて運用されているJCM(二国間クレジット)などでは、国際的な取引きのルールが確立されており、各国が掲げるCO2の削減目標(NDC)にも認められていました。

 しかし、民間の事業者主導のカーボンクレジットは国際的な取引きは行われていたものの、カーボンクレジットを発行する基準が認証機関ごとに異なり、国際的に統一されたルールがありませんでした。

 そのため、民間事業者主導のカーボンクレジットで企業がいくらCO2排出削減・除去の努力を行っても、NDCに反映されにくいという課題がありました。

 COP29で国際的な運用ルールが決められたことで、民間事業者主導のカーボンクレジットでも国際的な基準に基づけば各国のNDCに認められる可能性が出てきました。企業は自社の取り組みを正式な国の実績としてアピールしやすくなるため、国際的な取引きが活発化し、CO2排出削減・除去の取り組みが加速することが期待されています。

GX-ETSの本格稼働

 日本政府はカーボンニュートラル達成に向けた施策の一つとして、排出量取引制度(GX-ETS:Emission Trading Scheme)の導入を進めています。GX-ETSとは、企業間で排出削減枠を取引きできるキャップ&トレード制度です。現在は第1フェーズとして、GXリーグ(注)に参画する700社以上の企業が、自主的に設定した目標に基づいて削減への取り組みやカーボンクレジットの取引きを行っています。

 2026年からは第2フェーズに移行し、参加企業数を高める方策や、政府の指針を踏まえた目標設定、達成状況に応じた規律の強化などが検討されています。企業の削減努力がこれまで以上に求められるため、その対応策としてカーボンクレジットを導入する企業が増加していくと考えられます。

(注)GXリーグ……2050年のカーボンニュートラル達成を目指してGX(グリーントランスフォーメーション)に取り組む企業が、官公庁や大学とともに議論や実践を行うプラットフォーム

現状を正しく理解した上で、活用の仕方を検討しよう

 カーボンクレジットは、2050年のカーボンニュートラル達成を促進するものとして世界各国で導入が加速しています。

 さらに近年、多くの国で、CO2を地中深くに圧入し長期貯留するCCS(Carbon Capture and Storage)という技術を活用して、大量のCO2の排出削減・除去を目指すCCS事業の検討が進んでいます。カーボンクレジットは、このCCS事業の普及を後押しする方策の一つとしても注目を集めています。

 CCS技術は莫大なコストが課題ですが、地中貯留したCO2の削減価値をカーボンクレジットとして市場で売ることができれば、CCSコストの一部を回収することが可能となります。また将来、炭素価格(カーボンプライス)が高くなれば、CCS事業自体に経済性が生まれ、CCS事業に投資する企業も増えることが期待されているのです。

 カーボンクレジットの取引価格は実にさまざまで、需給のみならず、削減活動(プロジェクト)の公益性や信頼性などの影響を受けて変化します。カーボンクレジットを取り巻く状況は進化し続けているため、常に最新の動向をキャッチし、実態を正しく理解することが大切です。その上で、最適なカーボンクレジットの活用方法を検討できると良いでしょう。

記事掲載日:2025年3月13日

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