AIの普及により電力需要が急増! 電力不足を防ぐ取り組みを解説
生成AI(人工知能)の急速な進化などにより、ここ数年でAIの普及が一気に進みました。私たちの便利な生活を支えているAIですが、実はAIが使われるほど、多くの電力が消費されていることはご存知でしょうか。今後、AIの利用がさらに拡大していけば、それに伴って電力需要も増加していくと想定されています。
「電力が足りなくなることはないの?」「電力需要の増加は私たちの生活に影響しないの?」と疑問に思う人もいるでしょう。そこで本記事では、電力需要の見通しや、AIによって電力需要が増えている理由、電力需要の増加に対する取り組みについて解説します。
電力広域的運営推進機関(OCCTO)が2025年1月に公表したデータによると、2023年度まで減少基調が続いていた日本の需要電力量(1年間に消費された電力の総量)は、2024年度から増加傾向に転じ、10年後の2034年度には2024年度比で5.8%の増加が予測されています。
出所:「電力広域的運営推進機関HP 2025年度 全国及び供給区域ごとの需要想定について」をもとにJOGMECが作成
- 電力広域的運営推進機関が同機関の業務規程第22条の規定に基づき、2025年度供給計画における需要想定の前提となる人口、国内総生産(GDP)、鉱工業生産指数(IIP)その他の経済指標について、2024年度を含む11年後までの各年度分の見通しを策定。
- 調査時点でのデータセンター・半導体工場の申込状況をもとに想定した結果、2031年度を境に伸びが減少しているが、将来の新増設申込の動向により変わる可能性がある。
電力需要の増加にはさまざまな要因が関係していますが、近年急速に拡大するAIの普及やデジタル化の進展などを受け、データセンター(注)や半導体工場が次々に新増設されていることが大きな要因とされています。データセンターと半導体工場の新増設による最大需要電力は、2034年度には2025年度比で約13倍になることが予測されています。
(注)データセンター:インターネット上で利用される大量のデータを保管・処理するための施設
データセンター・半導体工場の新増設に伴う個別計上最大需要電力
出所:「電力広域的運営推進機関HP 2025年度 全国及び供給区域ごとの需要想定について」をもとにJOGMECが作成
今後、データセンターの新増設により電力需要の増加が予想されていますが、著しい増加の一端を担っているのがAIの普及です。AIは、大量のデータを学習したり、複雑な計算処理を行うため、データセンターの存在は不可欠です。
データセンターが使う電力量は非常に大きく、一般的なデータセンター1拠点あたりの消費電力は約50MW(メガワット)程度で、これは一般家庭の契約容量に換算すると約1万~1万6千世帯分に相当します。
データセンターには、何千、何万台ものサーバーが設置されています。サーバーとは、簡単に言うとネットワーク上にある情報やサービスを提供するコンピュータです。例えば、私たちがスマートフォンでSNSを利用したり、電子決済をすると、そのデータはサーバーで保存・処理されます。
サーバーは膨大なデータを高速で処理するため、通常のノートパソコンやデスクトップパソコンよりもはるかに高性能で、多くの電力を消費します。データセンターには、多くのサーバーが設置されており、それらが24時間365日稼働しているため、極めて多くの電力が必要になります。
種類 |
消費電力の目安 |
ノートパソコン |
40~50W(ワット) |
デスクトップパソコン |
200W(ワット) |
サーバー |
数百W(ワット)~1,000W(ワット) |
AIの場合、大量のデータを高速で処理する計算が必要であり、そのために高性能な専用チップ(GPUやTPUなど)を搭載したサーバーが必要となり、これらは通常のデータ処理に比べて数倍~10倍以上の電力を消費します。さらに、生成AIのように画像や動画を処理するAIは、膨大なデータを一度に処理するため、さらに多くの電力を消費します。
サーバーは一般のパソコンと同様、稼働することで熱を発します。発熱した状態だとパフォーマンスの低下や故障を引き起こすため、データセンターにはサーバーを冷やすための設備が欠かせません。一般的な空調設備などのほか、液体で機器を冷やす高性能な冷却装置などもあり、それらが常時稼働するため、電力消費の大きな要因となっています。
AIに対応したサーバーは、データ処理の量やスピードが求められる分、従来のサーバーよりも発熱しやすいため、冷却に費やす電力量もより多く必要になります。
電力の需給バランスを保つために行われている取り組み
増加する電力需要に対し、万一供給が追いつかなくなると、計画停電などが行われる可能性がゼロではありません。そうした事態が起きないよう、将来の需要増加を見越して電力需給のバランスを維持するためにさまざまな取り組みが行われています。
電気は貯めておくことが難しいため、常に需要に見合った供給力を確保しておく必要があります。しかし、発電所の維持にはコストがかかる上、新設や修繕には長期間を要するため、電力の市場価格の低下などにより発電設備への投資回収が見込めないと、発電所が維持できなくなってしまいます。そうすると、需要に供給が追いつかなくなったとき、電力が不足する恐れがあります。
そこで導入されたのが「容量市場」です。容量市場では、電力広域的運営推進機関が将来の電力供給を安定させるために、発電事業者との間で「一定の発電能力を確保する契約」を結びます。発電事業者の選定はオークション形式で行われ、発電事業者は将来の電力供給の責任を負う代わりに、小売電気事業者(家庭などに電気を販売する事業者)などがそれに見合った金額を支払います。
この仕組みによって、発電事業者は将来の供給力に対する対価が見込めるため、設備投資を行いやすくなります。さらに、オークションでは電力の需要想定に基づき、電力広域的運営推進機関が試算した4年後に使われる見込みの最大需要を満たす供給力が取引きされるため、将来の電力需要増加にも備えておくことができるのです。
脱炭素電源の普及を後押しする「長期脱炭素電源オークション」
容量市場の一部として、2024年1月から再生可能エネルギーや水素、アンモニアなどの脱炭素電源への新規投資を行う事業者を対象とした「長期脱炭素電源オークション」も行われています。これは、落札された事業者に対して、小売電気事業者などが新たな電源をつくる費用を支払うというものです。
この仕組みによって、新たな脱炭素電源が絶え間なくつくられるため、カーボンニュートラルに貢献する電源を増やしながら、長期的な供給力を確保することができます。
日本は、地震や台風などの自然災害が起きやすい災害大国です。災害時に発電所が使えなくなり供給力が下がったり、一時的に電力需要が急増して容量市場で確保していた供給力を上回り、電力が不足する可能性があります。
このように、緊急で追加の供給力確保が必要になった場合に備えて、休止中、もしくは休止を予定している10万kW(キロワット)以上の火力発電所を予備の電源として確保する取り組みが行われています。
AIの急速な発展と普及に伴い、電力需要の増加は避けられない状況です。とはいえ、供給に目を向けてみれば、将来にわたって電力不足を発生させないための取り組みも行われています。そのため、AIの普及やデータセンターの増加に起因する計画停電などが行われる可能性は低いでしょう。
しかし、一人ひとりが節電や省エネを意識することで、電力需要の上昇を抑えることができます。室内温度を適切に設定し、無駄な冷暖房を避ける、使っていない電化製品の電源をこまめに切るといった日常の小さなことが、日本の電力の安定供給につながります。まずは、自分がどのくらいの電力を使っているのかを把握するなど、できることから始めてみましょう。
記事掲載日:2025年3月27日