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違法採掘は何が問題? 背景や防止策について解説!

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 近年、「違法採掘」に関するニュースを耳にする機会が増えています。例えば、2024年には南アフリカで、閉鎖された金鉱山に多数の違法採掘者が立てこもる事件が発生し、注目を集めました。

 この記事では、違法採掘の概要のほか、どのような問題が引き起こされているのか、そして違法採掘を防ぐカギとなる技術として期待が高まるリモートセンシング技術について、わかりやすく解説します。

違法採掘とは

 鉱物資源の採掘は、誰でも自由に行えるわけではありません。鉱業省など国の担当機関に、採掘計画や採掘活動が自然環境に与える影響を最小限に抑えるための計画書である「環境影響評価(EIA)」等の必要書類を提出して、特定のエリアで採掘を行うための「採掘許可証(鉱業権)」を取得する必要があります。

採掘許可証(鉱業権)で定められる項目の一例

項目 概要
採掘範囲 採掘を行うことができる区域
対象鉱物 採掘可能な鉱物の種類
存続期間 鉱業権の有効期間や、更新の可否
採掘規模 機械を使用した採掘なのか、大規模設備を導入するのかなど、どれくらいの規模で採掘を実施するのか
(注)国や地域によって詳細は異なる

 「違法採掘」とは、こうした正規の手続きやルール(規制)を守らないで行われる採掘など、鉱業権で認められた行為から逸脱した採掘を指します。
 

違法採掘にあたる主な行為

行為 概要
無許可での採掘 鉱業権の取得など正規の手続きを行わずに採掘する
許可された範囲外での採掘 鉱業権の指定区域を超えて採掘を行う
禁止された区域での採掘 国立公園など採掘が認められていない土地での採掘
許可された規模を超えた採掘 手作業での小規模な採掘で申請しているにも関わらず、大規模な機材で採掘を行うなど、鉱業権で認められた採掘規模を超えた採掘
許可されていない鉱物の採掘 鉱業権で認められた鉱物とは異なる種類の鉱物の採掘

違法採掘の問題性

 違法採掘は、単にルールを逸脱しているというだけでなく、以下のような社会問題を引き起こすことから、世界各国で大きな問題となっています。

違法採掘が引き起こす問題

問題 概要
環境破壊 違法採掘による森林伐採、河川汚染や土壌破壊によって、周辺環境や気候変動に深刻な影響を与えている。
労働問題 無報酬労働や低賃金労働、劣悪な環境での労働、児童労働など、労働者の人権が侵害される働き方が常態化している。
健康被害 金の抽出に使われた水銀やシアンが大気や水域・土壌を汚染し、地域住民に深刻な健康被害を及ぼしている。
地域住民の人権問題 環境破壊によって地域住民の往年の居住地や生計手段が奪われている。
紛争の激化や治安の悪化 違法採掘による収益が武装勢力や麻薬組織の資金源になることで、紛争や治安の悪化を招いている。
違法採掘された鉱物の流通 違法採掘された鉱物は、取引きや精錬といった過程でさまざまな国を経由するため、違法採掘された鉱物を使った製品が世界中に流通し、消費者も無意識に関与している。

環境に配慮しない形で違法採掘が繰り返された結果、大量の炭素が蓄積されている泥炭地の破壊が進んでいる。

紛争鉱物との違い

 違法採掘と混同されやすい言葉に「紛争鉱物」があります。紛争鉱物とは、紛争が激しいコンゴ民主共和国とその周辺地域で採掘される鉱物が代表的で、これらから精製される金属の頭文字をとって3TG(タンタル・タングステン・錫・金)とも呼ばれます。これらの採掘や取引きによって得られた収益が武装勢力の資金源となっており、紛争を助長していることが問題視されています。

 違法採掘はこのような紛争鉱物にも関与していると言われており、2025年1月末にコンゴ民主共和国東部で発生した武装勢力による紛争原因の一つといわれています。

 アメリカでは、企業が製品に紛争鉱物を使用していないことを開示することが義務付けられています。

違法採掘が行われる背景

採掘をしている様子
 
 違法採掘は主に、アフリカや南米、東南アジアなど、鉱物資源が豊富な地域で行われています。その多くの形態は、零細・小規模な採掘(英語でArtisanal, Small-scale Mining: ASMと呼ばれる)で、世界銀行によれば、世界の80カ国で約4,500万人以上(注)が関わっているとされています。なぜ多くの人が違法採掘を行っているのでしょうか。違法採掘の背景にある要因として、主に以下の3つが挙げられます。

(注)出典:2023 State of the Artisanal and Small-Scale Mining Sector. Washington, D.C.: World Bank Group.外部リンク

紛争

 紛争地帯では、短期間で莫大な利益を得られることから、武装勢力の資金調達の手段として違法採掘が行われています。採掘や取引きによって得た利益が武器購入の資金源となることで、紛争の激化や長期化の一因となっています。

 最近は武装勢力だけでなく、麻薬組織なども違法採掘による利益を資金源としており、治安の悪化が懸念されています。

金の価格高騰や重要鉱物の需要増加

 近年、金の価格は1グラム1万円を超えるほど高騰しています。さらに、カーボンニュートラルの推進により、コバルトやリチウム、ニッケルなど、電気自動車(EV)や再生可能エネルギー機器に不可欠な重要鉱物の需要も急増しています。

 これらの鉱物を採掘すれば、他の仕事をするよりも短期間で高収入を得ることができるため、違法採掘が拡大する一因となっています。2024年に起きた南アフリカでの閉鎖された金鉱山での違法採掘者の立てこもりも、金価格の高騰が影響していると考えられます。

現地住民の貧困問題

 違法採掘が行われている地域では、住民が十分な雇用機会を得られず、貧困に苦しんでいる人が多くいます。高値で取引きされる鉱物を少しでも採掘できれば、当面の生活費を稼ぐことができるため、違法採掘に手を染める人が後を絶ちません。

 取り締まりを強化すれば、彼らの生活手段を奪うことにもなるため、対策は難航している状況です。

違法採掘を防ぐカギとなる「リモートセンシング」

 さまざまな社会課題を解決するためにも、違法採掘の防止は急務の課題です。そうした中で、有効な手段として期待が高まっているのが、リモートセンシング技術の活用です。

リモートセンシングとは

 リモートセンシングとは、対象物に直接触れることなく、その形や性質を測定する技術のことです。例えば、スマートフォンのカメラで撮影することも、広い意味ではリモートセンシングにあたります。

 実際にリモートセンシングが活用される現場では、人工衛星や航空機、ドローンなどに搭載したセンサーが異なる波長の電磁波を捉え、離れた場所から地上の状況を観測しています。

リモートセンシングの強み

 リモートセンシングの強みは、人工衛星や航空機を使用することで、広範囲を観測できること、そして数メートル単位の精度で地上のあらゆる情報を取得できることです。

リモートセンシングで観測できる情報と活用例

情報 活用例
植生や森林の状態 森林伐採や植生の健康状況など変化の把握や監視、農作物の育成状況の管理
地形の特徴や変化 地形分類、地滑りや地震の影響の調査
海水の温度 漁場の把握、海流の変化の分析
岩石・鉱物の種類 鉱物資源の探査や地質構造の調査

 現地に足を運んで調査する必要がないうえ、無料で公開されている衛星画像の場合には誰でも利用することができるため、コストがかからない点も大きなメリットです。
 

リモートセンシングで観測されたデータの解析事例。
人には見えない波長の電磁波を捉えることで、鉱物の種類を識別できる。

違法採掘の発見に活用されるリモートセンシング

 違法採掘を取り締まるには、まず違法採掘が行われている場所を特定する必要があります。そういった場所では、森林が伐採されている、森林伐採周辺の池や河川が濁っている、土地が人為的に削られているといった環境の変化が見られます。

 リモートセンシング技術を活用すれば、こうした変化を離れた場所から高い頻度でモニタリングできます。そのため、違法採掘の兆候を効率良く発見し、迅速な対策を講じることが可能となります。

リモートセンシングを用いて違法採掘を発見する仕組み

パターン1は採掘範囲外の痕跡から違法採掘が行われていると判断できる。 パターン2は川による浸食が起こりえない場所で地面が削られていることから違法採掘が行われていると判断できる。

違法採掘は私たちの暮らしとも深く関わっている

 違法採掘は、環境破壊、気候変動や人権問題など、多くの社会課題と密接に関わっています。日本に住んでいると実感しにくいかもしれませんが、私たちが普段目にする電化製品や宝飾品にも違法採掘を起源とする鉱物が使われている可能性があり、決して他人事ではありません。

 リモートセンシングは、世界中の人が利用できる技術です。衛星画像を活用するスキルを学べば、誰でもコストをかけずに違法採掘を発見し、防止に向けて行動することができます。そのため、今後さらに重要性が高まると考えられています。

 2025年のCOP30(国連気候変動枠組条約締約国会議)は、ブラジル・ベレンで開催予定です。ベレンは違法採掘が深刻と言われるアマゾン地域に位置しており、違法採掘についても議題にあがる可能性が高く、世界的な関心が集まることが予想されます。「遠い国の出来事」と思わず、ぜひ違法採掘に関する話題にアンテナを張ってみてください。


(免責事項)
本稿に掲載されている画像・図表類はイメージであり、実際の違法採掘の現場とは異なる場合があります。また、機構の著作権に関する方針にかかわらず、本稿で用いた画像・図表類等の引用・転載はお控えください。

記事掲載日:2025年4月18日

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