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資源エネルギー業界が主導するカーボンニュートラル社会(3)

資源エネルギー業界が主導するカーボンニュートラル社会(3)

カーボンニュートラル社会の実現に向けて解決すべき課題

2050 年カーボンニュートラル社会の実現に向けて走り出した日本。
しかし、その行く末には多くの課題が山積している。
ここでは、主に資源エネルギー業界が抱える3つの課題を紹介しよう。

カーボンニュートラル社会と資源エネルギーの安定供給を両立するにはALL JAPAN の取り組みが不可欠

 カーボンニュートラル社会と資源エネルギーの安定供給を両立するには、技術、コストなど課題が山積みだ。中でも大きな課題と考えられるものに「クリーンな水素・アンモニアの安定供給」「CO2の排出削減・回収事業の推進」「各種制度・ルールの整備」などがある。ゼロエミッション燃料として期待される水素は現在、化石燃料からの製造が有力。水素製造にかかるコストを含め経済性を確保し、安価に大量に供給する仕組みが求められる。同時に、地熱発電の活用や水素製造で排出されるCO2を地下に貯留するCCSなど、CO2 排出削減の取り組みも強固に推進しなければならない。一方、カーボン・オフセットを実施するうえでグローバルな基準や国際的なルールの整備も欠かせない。いずれも国を挙げて強力に推進していく必要がある課題だ。

クリーンな水素・アンモニアの安定供給

 燃焼時にCO2を排出しない水素とアンモニア。その製造過程でCO2を一切排出しない再エネによる水の電気分解への期待が高まっている。しかし、気象条件や設置面積などの制約によって再エネのコストが高い日本では、すぐに安価で大量の水素・アンモニアを供給することは困難。当面は、その多くを海外からの輸入に頼る必要がある。一方、輸入に頼るとしても、経済性を確保したクリーンな水素・アンモニアの製造、供給システムは確立されていないのが現状だ。
 例えば、天然ガスから製造される水素は、今後製造過程で排出されるCO2を分離・回収し、地下深部への圧入や再利用する処理が必要になる。再エネによる水素製造もコスト低減が課題だ。水素・アンモニアの製造から日本への輸送に至るまでのバリューチェーンを構築するためには、技術的、資金的な支援が必要になる。加えて、実際に水素やアンモニアがエネルギー資源として利用されるようになれば、備蓄についても検討する必要性が出てくるかもしれない。
  • 岩谷産業が設置を進める水素ステーション。現在、国内53カ所、米国で4カ所を運営する。今後も需要拡大を見越して拡充する計画だ

  • 川崎重工業が手がけた世界初の液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」。水素を-253 度に冷やすことで液化させ、体積を気体の1/800に下げて運搬する。水素の国際サプライチェーン構築に向けた大きな取り組みといえる

カーボン・オフセットとしてのCO2の排出削減・回収事業の推進

 再エネや水素・アンモニアなどのゼロエミッション燃料を最大限利用し、CO2排出削減に精一杯取り組んだとしても、経済活動や安定した暮らしを継続する上でCO2の排出をゼロにすることは難しい。その中で、カーボンニュートラル社会を実現するには、排出するCO2を相殺(オフセット)する手段が必要になる。
 現在、その手段の中心は植林だ。例えば最近は「カーボンニュートラルLNG」と呼ばれる商品が流通し始めている。LNG利用時に排出されるCO2に対し、あらかじめ植林などで得た「クレジット」を使ってCO2排出量をオフセットした商品で、すでに日本にも輸入され始めている。
 CCSや再エネなども、このようなカーボン・オフセットの手段となり得る。例えば、CCSや海外地熱開発で得たクレジットで化石燃料や金属鉱物資源の生産・消費時のCO2排出量をオフセットすることができれば、クリーンな資源エネルギーの供給が実現できる。火力発電所や製造業で排出するCO2を削減する手段としても期待されており、今後は上流開発とは切り離したCCS単独事業への支援も必要となるだろう。
  • 再エネである地熱発電事業を海外展開することでCO2クレジットを獲得することができれば、カーボン・オフセット実現に向けた大きな足がかりとなる

  • CCSに関する実証試験を行った北海道苫小牧市の実験設備。2016年から2019 年の3 年間で、約30万トンのCO2を地下に圧入することに成功している

各種制度・ルールの整備

 欧米を中心に炭素税や排出権取引等のカーボンプライシングの議論が活発化している。先行するEUでは、1990年代から各国が炭素税を導入し、2005年からはEU域内での排出権取引制度「EU-ETS」が導入されている。一方、日本を含め多くの国では制度導入が検討されている状況で、現時点で国際的な共通ルールは存在しない。それらカーボンプライシングの制度枠組みだけでなく、CO2排出量や排出削減量についての算定方法や計算式、評価方法も確立されていないのが実態だ。
 現在は地域や国による個別ルール、民間主導のクレジット制度、国際機関のガイドラインなどにのっとり取引されている。企業にとって、この状況はリスクを客観的に評価できないため、大きな参入障壁となっている。そのため、早急に国際的なルールや基準、枠組みなどの整備が求められているものの、これらは民間企業が解決できる問題ではなく日本政府を中心に強力に推し進める必要があるだろう。特に国際的なルール整備においては、日本企業が不利な条件を受け入れなければならない状況に追い込まれることのないよう留意が必要である。
  • 油ガス田の探鉱・開発で培われた、地下の状況を正確に評価する技術は、CCS 事業の長期貯留安定性やCO2 削減量などにおける評価手法や方法論、認証枠組みといったルール策定を確立していく上でも不可欠だ

  • 地下における原油等流体のシミュレーション画像。CO2 の貯留可能量の正確な算定やそれに伴うCO2 削減量の認証には、こうした地下構造を読み解く確かな技術を持つ機関が必要となる

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