資源エネルギー業界が主導するカーボンニュートラル社会(4)
カーボンニュートラルに向けた資源エネルギー業界の取り組みと抱える課題
カーボンニュートラル社会の実現に向け、民間企業はどのような取り組みを行っているのか。
石油天然ガス、鉱物資源、水素、地熱で事業を行う4社に話を伺った。
CCSに関する情報提供や資金援助等の幅広い支援が不可欠
当社では、従来からCO2EORの導入や石油・ガス上流資源開発と親和性の高い地熱・洋上風力といった再生可能エネルギー開発など、環境に配慮したエネルギー開発を進めてきました。政府の2050 年カーボンニュートラル宣言を受け、2021年1月、2050 年ネットゼロカーボン社会の実現に向け、「上流事業のCO2低減(CCUS 推進)」「再生可能エネルギーの強化と重点化」「水素事業の展開」「森林保全の推進」「カーボンリサイクルの推進と新分野事業の開拓」という5つの事業の柱を強力に推進する方針を示すとともに、同年3月、水素・CCUS 事業開発室を新設しました。特にCCSについては、国内のルール整備や社会受容性の問題、欧州のようなCCSハブ構想など、国には幅広い視点の政策を期待する一方、JOGMECには、CCS・CCUS実施に向け(1)候補地の探査・調査・評価、(2)実証試験への参加や補助、(3)EPCおよび操業を含んだ事業化にかかる費用に関し規模等を踏まえた出資・補助金等、の支援を期待します。さらに、現状の石油・天然ガス分野からCCUSや水素・アンモニア事業等、カーボンニュートラル事業まで民間企業の取り組みへの多面的な支援拡大により、ネットゼロカーボン社会の実現に向けたエネルギートランジションを牽引することを期待しています。
標準化の推進や国際的なルール整備に向けた支援を期待
当社は2021年5月、2050 年度CO2ネットゼロ達成に向け、CO2自社排出量を2030 年度に2018 年度比で50%削減という中間目標を定めました。従来の目標年度である2040 年度を大幅に前倒しし、国内外の鉱山や工場で電力のCO2フリー化を進めています。さらに、資源循環によるCO2削減の観点から、銅製錬におけるリサイクルの増処理、電気自動車のリチウムイオン電池からの有用金属回収実用化にも取り組むほか、省エネルギー化に寄与する半導体向け等の先端材料の開発・製造により社会のカーボンニュートラル化に貢献しています。
カーボンニュートラルの実現には、ライフサイクル全体のCO2 排出量を考える必要があります。例えば自溶炉での銅の溶解はカーボンフリーであり、その反応熱をリサイクルに活用することで循環社会に貢献していますが、一方で、リサイクル原料の輸送や前処理ではCO2が排出されてしまいます。したがってそれらを定量的に示すLCA(注)の確立とその標準化が要であり、その開発にはJOGMECで蓄積されたデータも基盤情報になるでしょう。国やJOGMECには、日本企業の競争力が削がれないよう、国際動向の把握・共有や日本主導の標準化の推進、国際的なルール整備に向けた働きかけ等に期待しています。
(注)ライフサイクルアセスメント
当社は水素を1941年から販売しており、国内シェアの70%を占めています。またパームヤシの殻を用いたバイオマス燃料「PKS」や植物由来のバイオPET樹脂、石炭・石油に比べてCO2 排出量の少ないLPG(液化石油ガス)など低環境負荷製品の開発・販売も行っています。
カーボンニュートラル社会に向けて、政府は2030 年までに300万トン、2050 年までに2,000万トンという年間水素導入目標を掲げました。当社は現在化学工場での副生水素や天然ガスから製造する水素を供給していますが、今後はグリーン水素やブルー水素にも取り組みます。具体的には、福島県浪江町で太陽光発電により水を電気分解して水素を作るプロジェクトのほか、豪州で褐炭から水素を製造し、日本へ輸出するプロジェクトに参加しています。
水素社会の実現に向けて需要拡大と供給は両輪です。バスやトラックなどの輸送部門や発電部門での需要拡大が期待される一方、輸入する水素には輸送やCCSなどにコストがかかるため、安価な水素の供給が課題です。エネルギー資源として争奪戦となることも予想され、資源外交や資金支援のほか、税制、排出権取引、FIT導入といったインセンティブをつけるなど、制度面でのサポートも必要でしょう。国やJOGMECが積極的に推し進めてくれるものと期待しています。
リードタイムの長い地熱発電では資金支援や相手国との関係構築に期待
当社は約10 年前に、将来を見据えた中長期環境ビジョン「Obayashi Green Vision 2050」を策定しました。建設事業からCO2 排出量を削減するだけでなく、電力事業者として太陽光発電や風力発電、地熱発電など再生可能エネルギーにも取り組んでいます。特に地熱発電に関しては、大深度掘削や波方国家石油ガス備蓄基地での貯蔵の知見が活かせると考えて勉強を開始し、JOGMECに支援いただきながら地熱発電所の建設に向けた調査を進めてきました。2020 年7月には大分県で地熱発電実証プラントの建設に着手しましたが、これはその地熱発電電力を活用した水素製造実証プラントを併設する国内初の試みです。これまで送電網に接続できない地熱発電は地産地消するしかありませんでしたが、その電力で水素を製造することで、エネルギーの移動が可能になります。同様に、海外でも地熱先進国であるニュージーランドで地熱発電による水素のサプライチェーン構築に取り組んでいます。地熱発電は構想から着工、着工から操業、さらには操業後も事業期間が長く、再生可能エネルギーの中でも最もリスクの高い事業です。海外では地元の協力の取り付けや法整備に必要となる相手国政府との関係構築、国内でも補助金など資金面の支援を国やJOGMECに期待しています。