特集1:SPECIAL対談 AIの専門家とエネルギー開発を語る(1)
対談を行った株式会社Preferred Networks 執行役員 インダストリーソリューション担当VP 比戸将平氏(左)とJOGMEC デジタル推進グループ デジタル技術チームリーダー 小西祐作(右)
資源の安定供給を使命とするJOGMECでは、現在、人工知能(AI)など最先端のデジタル技術を積極的に活用することで、資源探査の効率化や資源開発における安全性のさらなる向上を目指している。今回は、AIの産業への応用事業を数多く手掛けるベンチャー企業株式会社Preferred Networks(PFN)の執行役員である比戸将平氏を迎え、JOGMECの小西祐作と資源エネルギー業界におけるAI活用について話し合った。
小西 私は地質学が専門で、野山に分け入って岩石を叩いたり地層の傾きを調べたりして、地質構造の成り立ちを探ることを専門にしてきました。そのため、AIというものも、インターネットのサーチエンジンとか、呼びかけると照明をつけてくれるような製品に入っているプログラム、くらいの認識でした。
比戸 機械学習やディープラーニング(深層学習)などのAI、すなわち人工知能というと難しく聞こえるかもしれませんが、基本的には今のお話にも出たプログラムのひとつです。コンピューターを扱う方法には2種類あり、ひとつは「この場合はこうしなさい」と命令する方法です。それに対し、データをたくさん見せて、その中から「こういうときはこうしたらいい」と例を示してコンピューターに動いてもらうのがAIと呼ばれる手法です。
小西 比戸さんはIBM基礎研究所を経て2012年にPFNの前身となるPreferred Infrastructure(PFI)に入社されました。当時、AIへの期待が大きかったということですか?
比戸 PFNの前身の会社にいた2012年頃、ディープラーニングが急速に発展するのを目の当たりにしました。様々な分野で、たくさんのデータをうまく用いることでイノベーションを起こし始めていたのです。社内でもその可能性が注目され、ディープラーニングに注力するPFNがスピンオフしたため、私もAIの大きな波を感じて転籍しました。現在はAIの第3次ブームと呼ばれ、盛り上がっていますが、その背景にはビッグデータの蓄積と、それを処理するディープラーニングの登場があります。
小西 読み通り、今では多くの分野でAIが活用されています。最近はどのような分野に注目されていますか?
比戸 最近は材料探索がすごくおもしろいと思っています。たとえば創薬の分野でいうと、ある病気の治療薬を作るとき、どういう組成の化学物質が効くかをAIで探るというものです。これまでは人間が経験に基づいて化学式を作り、実験を繰り返してきました。そのプロセスの多くをAI化すれば、実験を減らしたりコストを削減できます。これは創薬の話ですが、すでにさまざまな産業で取り入れられています。弊社でもENEOSさんと合弁会社を設立し、7月からMatlantisという化学品や新素材開発向けシミュレータの提供を開始しました。材料探索に要していた計算時間を数万から数千万倍高速化して、数秒単位で実施できるようになりました。
小西 数千万倍とはすごいですね。人が追いすがることもできない速さで研究が進むと思うと、とても大きな可能性を感じます。
株式会社Preferred Networks
執行役員 インダストリーソリューション担当VP 比戸 将平 氏
2006年京都大学大学院情報学研究科修士修了、同年日本IBM東京基礎研究所に入社、データ解析技術の研究開発に従事。
2012年4月にPreferred Infrastructureに入社。
2015年Preferred Networks米国子会社へ転籍。
2018年本社へ帰任、同年12月に執行役員に就任。2020年11月より現職