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特集2:資源エネルギーにまつわるニュースの読み解き方(1)

石油のニュースを読む

 資源エネルギーの大半を輸入に頼っている日本にとって、海外で起こるさまざまな出来事が私たちの生活に直接影響を及ぼします。ここでは、最近の資源エネルギーにまつわるニュースとその背景を読み解いていきましょう。
石油のニュースを読む P.8-1

教えてくれる先生は

石油天然ガス開発推進本部 首席エコノミスト 野神隆之

石油天然ガス開発推進本部 首席エコノミスト 野神 隆之

1987年石油公団入団。
1995~1997年通商産業省資源エネルギー庁。
2001~2003年国際エネルギー機関(IEA)に勤務後、石油公団企画調査部調査第一課長などを経て2018年より現職

需要と供給のバランスに加えて金融緩和政策が価格上昇の主要因

 2020年4月、新型コロナウイルスの影響で原油価格が急落。しかしその後回復し始め、特に2020年12月頃以降はより顕著になりました。日本では昨年以上に感染が拡大する中、なぜ原油価格は上昇を続けるのでしょうか。

需要と供給のバランスに加えて金融緩和政策が価格上昇の主要因

グラフは2020年1月から2021年9月の原油価格の推移を表したもの。世界的な新型コロナウイルスの感染拡大による経済活動の抑制に伴い需要が落ち込んだことから2020年4月に原油価格は急落。しかしその後は上昇に転じ、2021年7月13日にはWTIで1バレル当たり75.25ドルの終値と2018年10月3日以来の高水準に到達した

 原油価格は需要と供給のバランスで決まるのが基本的な考え方です。消費に必要な原油(需要)より生産される原油(供給)が少ないと価格は上がり、需要よりも供給が多ければ原油価格が下がります。
 その観点に立って需要と供給の動きを見てみると、原油価格の上昇が顕著になり始めた12月頃といえば、欧米諸国等でワクチン接種が始まったタイミングです。それにより個人の外出や経済活動の回復に伴う需要の増加への期待が高まり、原油価格の上昇につながりました。
 一方、供給面では、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う世界経済減速および石油需要の減少時にOPECプラス産油国が原油生産を削減し、供給量が減少しました。原油価格の変動は、世界の原油生産量の4割超を占めるOPECプラス産油国、特に、OPECの事実上の盟主であるサウジアラビアの動向が大きく左右します。同国では石油産業の国家収入に占める割合が大きいため、原油価格を上昇させたいとの思惑があります。そのため2020年の原油価格急落以降、OPECは減産し、原油価格の底上げを図ってきました。
 需要と供給に加え、景気刺激策として、世界中で金融緩和が行われたことも原油価格上昇に関わっています。超低金利で借りられる資金が市場に流入し、世界中の株価が上昇しました。日経平均も2021年2月、約30年ぶりに3万円台を記録し、大きく話題になりましたが、原油市場にも同様に資金が流入し、相場を押し上げたのです。これら複数の要因が重なり合うことで、原油価格が上昇を続けてきました。

欧米を中心にワクチン接種が始まったことで、個人の外出規制や経済活動の制限が緩和。経済活動の回復に伴い急落していた原油価格の上昇が顕著になった

 では、今後、価格が下落する要因がないかと言えば、そうでもありません。たとえばイランの動向です。2021年に米国でバイデン政権が誕生したことで、イランとの核合意正常化への期待が高まっています。イランへの制裁解除は同国の原油の増産につながり、原油価格の下落要因となります。また、OPECの中でもアラブ首長国連邦(UAE)は原油生産抑制に消極的な姿勢を示す場面も見られます。UAEでは、近年のカーボンニュートラル推進の動きに対し、需要消滅の前に国内に埋蔵される原油を売り切りたいという思いがあります。秩序だった生産方針を重視するサウジアラビアとの思惑の違いが、今後OPECプラス産油国全体の原油生産調整をめぐる足並みの乱れにつながるかもしれません。そうなれば供給量が増加し、原油価格下降の要因となるでしょう。

 原油価格の変動は、ガソリンや軽油および発電用燃料といった石油製品価格の変動につながります。石油製品価格が上昇すれば、トラックや船舶など運輸部門の収益が悪化し、自家用車が生活の足になっている地域では、生活費における燃料費の割合が高まることでほかの物品やサービスの消費の減少につながります。

今後、原油価格の上昇傾向が続けば、ガソリン価格のほか、スマートフォンなど原油を原料とするプラスチック製品価格の値上がりが危惧される

 日本の場合、発電燃料の中心を担う天然ガスの調達価格は、相当部分が原油価格に連動しているため、電気料金が値上がりする可能性もあります。ただ、反対に、原油価格が低すぎれば、石油産業の収益悪化とともに、油田開発投資の削減と供給減少につながり、将来的な石油需給の引き締まりと原油価格の高騰リスクをもたらします。大切なのは、原油価格を安定させることです。今回挙げた以外にも、原油価格を左右する要因はたくさんあります。いつどんな要因で原油価格が高騰・急落しないとも限りません。今後も、原油価格の動向に注意が必要です。

プロが解説!ニュースを読み解くためのキーワード

  • WTI(だぶりゅー・てぃー・あい)
     WTIはWest Texas Intermediateの略で、アメリカテキサス州とニューメキシコ州を中心に産出される高品質な原油のことを指す。その価格は欧州産の北海ブレント、中東産のドバイと並び世界の代表的な原油価格の指標の1つとなっている。また、ニューヨーク商業取引所で原油先物取引対象として上場されている。
  • OPECプラス(おぺっくぷらす)
     OPECとは石油輸出国機構のことで、産油国の利益を守るために1960年に設立。2021年9月現在、イラン、イラク、クウェート、サウジアラビア、ベネズエラ、UAEなど13カ国が加盟。世界の石油需給バランスの均衡と原油価格の安定を図るべく、加盟国の原油生産量の調整を行っている。2016年12月以降はロシア、カザフスタンおよびオマーン等の非OPEC産油国10カ国もOPEC産油国の原油生産調整措置に協力。OPEC産油国に加えOPEC産油国に協力する非OPEC産油国を合わせて「OPECプラス」産油国と呼ぶようになった。最近では、OPECプラス産油国の原油生産調整が原油価格に大きな影響を与えている。

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